~未改稿~
「こんにちわ、ツバメさん♪」
光太郎がダメ元で挨拶すると、「こんにちわ、少しお邪魔するよ。」ツバメが返事してきたので光太郎は驚く。
「みんな私を無視するのにツバメさんは奇特な方ですね。」
「人間はいつも儂らに構わず自分勝手に動いているのだから当たり前じゃよ。」ツバメが皮肉を言う。
「ごめんなさい。人の時は全然分からなかったよ。そうだね、無視されてもしょうがないね。」
「それにしてもどうして儂らに構うんじゃ?」ツバメが訊く。
「私はここから動けないから誰か動ける方にお願いをしたくて、みんなに声を掛けているんですよ。」光太郎は正直に答える。
「ふむ。どんな願いかな?」
「ある女性に私の事を伝えて欲しいのです。」
「もしかして好いた子でも居るのか?」
「ええ、こんな姿に成っても彼女の事が忘れられないのです。」
「そう言うのは自分で言うもんじゃろ。」素っ気なくツバメが答える。
「まあ、・・・そうですね。やっぱ無理ですか。」光太郎は気落ちする。
「まあ待て、お若いの。」ツバメが言葉を続ける。
「東京まで案内してくれるなら、一緒に連れていってやらんこともない。どうじゃ?」
光太郎は枝葉をザワザワ揺らして歓喜する。
「どうやって私を連れていくのでしょう?」
「なに、ちょっとしたコツが必要じゃがな。試してみるかの?」
「お願いします!ツバメの師匠!」
光太郎は3羽のツバメ達から樹木に花を咲かせ、実がなるイメージをレクチャーされ、実際に試すという実にぶっつけ本番的な修行を始めた。時々蝶々や蜂、雀が襲来してせっかくの花がポロリと落とされたりしたが・・・。
それでもようやく日が暮れる頃には1つの小さい樫のような果実が実った。
「相変わらずヒトの集中力は大したもんじゃな。」ツバメが光太郎を褒める。
「ありがとうございます。師匠のおかげです。それで、この実をどうするのですか?」
「お前さんがその実に移るんじゃよ。後は儂らが交代で運ぶから東京まで案内してくれんか。」
「イメージすれば良いのかな?、んんっ。」光太郎は自分と樫の実が1つの存在になった光景を念じる。
「成功じゃよ。」ツバメの声が聴こえて眼を開くと、光太郎はツバメに''くわえられて''いた。
「さて、行こうかの?」
「お願いします師匠。と言うか、そろそろ本当のお名前を教えて頂けませんか?私は石野光太郎です。数日前まで人間でした。」
「儂は久島一郎という。しがない老いぼれの大木じゃよ。ちょっとツバメを捕まえて一時的に身体を借りて東京まで旅をしておるのじゃ。他の二人は二郎、三郎じゃ。」
外のツバメ2羽からも。
「頼むのじゃ」「何かの縁じゃの。」と挨拶される。
「では、出発じゃ。」光太郎の実をくわえた一郎ツバメが飛び立つ。
光太郎の眼下にはまだ多くの木々がバスから生えていた。あの日、運転手や乗客の大半が生まれ変わった姿を認識して諦めてしまい、溶解したり、次第にヒトの意識を失って普通の樹木と化していた。
「皆さん、さようなら。お元気で。」
それでも光太郎はバスの彼らに別れを告げるとツバメにくわえられて空高く上昇し、北東に向かって行った。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m