夏乃は意識する
【東京都新宿区市ヶ谷 防衛省統合幕僚監部直轄 特別任務部隊「植人」駐屯地】
駐屯地の宿舎で光太郎は数名の隊員達と車座になって談笑していた。
知らない人が視ると、苗木が入った円筒形の容器を載せた模型のラジコンカーが円陣を組んでいるシュールな光景だが。
「隊長、例のブツはまだでありますか?」
「焦るな同志、お楽しみを待つ間のワクワク感も味わうのが紳士の嗜みだよ」
「失礼致しました!自分はまだまだ精進が足りておりませんでした!」
「いや、気にするな。逸る気持ちも解る。何故なら私も――――――」
「エロ本見てぇーー!!」
光太郎は魂の絶叫を上げる。
魂の絶叫を聞きつけたのか、緑色に染まったわさびパウダー(本わさび)の雲が宿舎で車座になっていた隊員を襲って宿舎内はしばしの間阿鼻叫喚の地獄となっていく。
最近は紳士達の優雅な日課に成りつつある光景だった。
「そんなに視たいなら、こっちに来れば良いのに」
監視カメラを映したモニターで宿舎内の光太郎達がわさび責めに遭っているのを呆れながら見つめる夏乃が呟く。
夏乃は光太郎が自衛隊に『転籍』した段階で須賀と久島から、銀行の仕事に戻るか意向を聴かれていたが意外と『自然に』光太郎の行く末を見届けたいと答えていた。
ちょっとエッチな所もあるが真っ直ぐに自分を想ってくれる人は今まで居なかったので、夏乃はとても嬉しかったのだ。
思念言語化実験の際に光太郎の気持ちも大体解った。
確かに植物と恋愛なんて未だに想像出来ないし実感も余り無いが、もはや光太郎達と居ない時間が考えられない位に夏乃は光太郎を意識していたのだ。
「……ふぅ」
そんな自分の感情を再認識すると夏乃は個室に戻っていくのだった。
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