不可解な出来事
東京、市ヶ谷の防衛省近くにあるコンビニエンスストア。夜勤の職員におにぎりやカップ麺を売り、飲み歩くサラリーマンに酔い醒ましを提供し、日夜客の出入りは激しい。
それでも''彼''は目立ち過ぎた。
3m近い身長に、残暑にも拘らずトレンチコートを羽織り、首にマフラー、サングラスにマスク、麦わら帽子……マネキンの様に白い足にはサンダルと、見事に皆無な季節感と通報上等、というファッションが店員の注意をグイグイ引いていた。
''彼''は、マネー雑誌を買う振りをしてマネー雑誌の裏側にグラビアアイドルの見事な肢体を表紙にしたR18な雑誌を買い物篭に入れるとポカリスエットと冷やし飴を篭に加えてレジで会計した。
''彼''は支払いを終えると、無言でレジ袋を受け取り、店の外に出て行った。
「あざースッ!」
レジ店員がお礼を言うと''彼''は律儀にお辞儀をしたが、ピョコンと勢い余って頭を下げた拍子に麦わら帽子とサングラスが床に落ちてしまい、頭髪の無いマネキンの頭部の様な顔が露になってしまった。
「ぎゃあぁぁぁ!」
悲鳴を上げると店員はカウンター下の非常通報ボタンを押すのだった。
けたたましいサイレンが鳴り響いて2分後には近くを警戒していた警官が駆けつけたが、不審者は逃走したらしく、コンビニの入口付近にはトレンチコートと麦わら帽子、サングラス、R18本が遺留品として押収された。
防犯ビデオを詳細に分析しても、顔写真が作れる''顔が無かった''。
この出来事は何故か公安から首相官邸の須賀官房長官に報告された。
須賀官房長官は久島一郎を呼ぶと再発防止を要請した。呼び出された久島一郎の表情は盛大に苦り切るとともに、呆れ返っていた。
【東京都新宿区区市ヶ谷 防衛省統合幕僚監部 特別任務部隊「植人」司令部】
「――――――という不可解な出来事が有ったそうじゃ」
少しも笑っていない目で一郎が光太郎に言った。
「師匠。コンビニでR18本買うPSなどあり得ません!
最近はネットで視れますから」
後半の一言は明らかに夏乃のお仕置き確定だが、憤る光太郎。
これは決して演技ではなく本当の感情なのだ。と心の中で棒読みする光太郎。
「問題は、未だ実験中の秘密兵器が自由に駐屯地を出入りしてしまうことじゃ。
万が一、何者かに捕まえられてしまえば軍事機密の漏洩じゃな。最悪は事故に見せ掛けた――――――」
一郎は言い掛けながら、首に手をあてて横にサッと引く。
「ひぇっ!」
光太郎が焦る。薪割り処刑は痛いだろうなぁ。
「再発防止とパトロールを強化しましょう」
光太郎は一郎と夏乃に約束した。
夏乃は何故か冷たく見透かした目で視ていたが……。
宿舎の温室に戻ると、副官の澤城1尉が出迎えてくれた。
「隊長、お帰りなさい。久島老師は何と?」
「PSの外出が問題らしい。
別の方法を………いや、忘れろ!今日からPSの警備を厳重にしろ!初日は私が徹夜で見張ろう!」
そう、再挑戦は今夜しかないかもしれない。
見透かされた欲望を隠す事なく決意を新たにする光太郎だった。
早速その夜にコンビニに出現した光太郎PSだが、店員に扮した夏乃の往復ビンタで変装を吹き飛ばされた上に、どこからともなく現れた二郎と三郎に取り抑えられた。
当然に買い物は没収され、何故か防衛省の半径300mにあるコンビニではR18本が''常に売り切れ''という表示が続く不可解な出来事が暫く続くのであった。
勿論買い占め資金は夏乃が管理する光太郎の給与口座からであった。
しばらくの間、夜な夜な光太郎の幹上部から血の涙とも思える赤い液体がじんわりと流れているのを当直隊員が発見して市ヶ谷の怪談として語り継がれるのは後年になってからである。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m




