火星の異変
9月9日【米国 フロリダ州 ケープカナベラル空軍基地内 米国航空宇宙局 ケネディ宇宙センター】
火星の地表を探査していたマーズオブザーバー2号が不思議な岩石を発見したのは、自室でバリーがポピガイの呟きを聴いていた時だった。
「局長。火星のオブザーバー2号が''訪問者''らしき物体に遭遇した模様です」
管制官が報告した。
「メインモニターに拡大投影しろ」
メインモニターに写ったのは、地上から3m位の空中をフワフワ浮いて移動している岩石だった。
「は?なんだ一体……」
唖然としている管制室の職員達。
フワフワ浮いて移動した岩石は別のフワフワ浮いている岩石と合流すると、丘の向こうへゆらゆらと去っていった。
「あれがバリーの故郷の…………」
管制官は彼を''人''だとは言えなかった。
彼らの頭の中では無意識のうちに生命体とは地球の生物を基準としてイメージしているため、岩石を''生き物''と素直には見れなかったのだ。
「別の地点で探索中のキュリオシティーの映像出します」
メインモニターの左半分がキュリオシティーの映像に切り替わった。
キュリオシティーの画面には、地平線の彼方の上空から無数の岩石が画面に真っ直ぐに向かってくるのが写されていた。
「緊急避難を!」「どうしろと?」
やがて画面一杯に赤茶けた岩石が写った瞬間、画面にノイズが走り、真っ黒になった。
「キュリオシティーからの信号途絶しました!」
「局長!オブザーバーが!」「!?」
マーズオブザーバーの画面には丘の向こうから真っ黒で巨大な砂煙が舞い上がり、こちらに向かって来ていた。
「どこか物影でやり過ごせないか?」
局長が管制官に指示する。
「近くに丁度同じ大きさの岩場があります。そこへーー」
移動させます、と管制官が言おうとした瞬間、モニターを視ていた者は呆然とした。
オブザーバーが向かっていた巨大な''岩場''がピョンと飛び上がると、砂煙を巻き上げながら空高く飛び去ってしまった。
「オブザーバー2号、通信途絶しました。」
遅れて管制官が報告した。
管制室からの連絡を受けたバリーが駆け付けて報告を聴くと顔を青ざめさせた。
【日本 種子島 JAXA宇宙センター】
「火星衛星軌道の観測衛星『オクトパス』が、火星地上で大規模な砂嵐を観測しました」
管制官が報告する。
「NASAの地上探索機が全て通信途絶した模様です!」
「軌道変更急げ、観測カメラ回せるか?」
「メインに出します!」
メインモニターに火星地上がモクモクとした雲に覆われている映像が写った。
「全球規模での砂嵐か?」
次の瞬間、雲の中から高速で黒い何かが画面に迫ってモニターが真っ暗になった。
「オクトパス、通信途絶」
JAXAの職員は誰もが呆然としていた。
「やはり来るか。この時期に……」
いつの間にか管制室の隅に居た御池が呟くと外に出て行った。
【軍事衛星回線 各国】
今回のG8会議において特筆すべきは首脳同士の情報交換とう名の定例会議後に行われた各地の''訪問者''だけの対話だろう。
「タイガにポピガイが逝ったか」
シュタインハイムが感慨深げに言った。
「あんたらが人間に甘いから儂らの同胞が割を食ったのではないかのぅ」
チクシュループ婆が皮肉を込めて言った。
「人間を焚き付けて我々が同士討ちするなど愚かとしか言えん」
御池が嘆く。
「人類の戦争にここまで深く介入したのは歴史上無かった事だ」
ボスムトゥイが言う。
「じゃあ、みんなはまた地下に潜って眠るの?」
チャップが皆に問う。
「このまま眠るのは無責任というものじゃ。
ケルトが考え『月の番人』の能力によって生まれた世界中の植人はどうなるんじゃ?」
久島兄弟が問う。
「私はせっかく誕生した”植人”と人類の行く末に責任を持ちたい」
ケルトが言った。
「儂もじゃ。人類は逞しく、強かじゃ。植人との組み合わせは決して悪い事にはならんよ」
久島兄弟が賛同する。
「なんにせよ、地球上で俺っちらが仲間割れはまずいっしょ」
バリーが深刻な顔をして言った。
「何か有ったの?」
クィーンが訊く。
「火星から大規模な隕石群が地球に向かったらしい。NASAとJAXAが観測したよ」
顔を蒼ざめさせたバリーが答える。
「いつまでも進歩せずに戦争で滅びようとしている人類に火星はしびれを切らしたようだ」
マニクアガンが言った。
「これ以上、我々の仲間が来訪して地球に干渉するのは侵略と何ら変わらんぞ」
御池が否定的な意見を口にする。
「火星は容赦せんぞ。進歩しないモノは不要と言って存続に必要な数にまで人類を減らすじゃろうよ」
チクシュループ婆が言った。
「どれくらいで地球に到達するの?」
チャップがバリーに訊く。
「1年後に地球へ到達する」
バリーがポツリと言った。
「これ以上は来なくていいさね。儂はこれから力を振るうというに」
チクシュループ婆が不満気に言った。
「我々が『月の番人』と共に迎え撃つかの?」
久島兄弟が提案する。
皆が無言で頷いた。
地球と火星の戦いが決まった瞬間だった。
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