NYに行きたいか?
この小説はフィクションです。実在する国家、団体、企業、個人、法律等とは一切関係ありません。
光太郎の修行を兼ねた「訓練」は、まるでボクサーが主人公の映画「◯ッキー」の如く順調に?進んでいった。
朝起きると何故か蔵前国技館の土俵上でサンドバッグを寝袋にして寝ており、おはようの挨拶とばかりに力士から手痛い突っ張りをもろに受けて土俵際から突き飛ばされたり、昼寝から目覚めると、サンドバッグを付けたまま、国立競技場で社会人アメフト部員からタックルを喰らったり、高尾山の頂上で火炎の恐怖を味わいながら味気ないBBQを楽しんだ後、朝まで置き去りにされたり、光太郎は幾度、官邸にいる夏乃にシクシクと泣きついたことか。
夏乃が母性本能を発揮して「どうして光太郎君がこんな目に逢わなければならないの!?」と涙ながら久島兄弟に怒ったりした珍しい場面も見られた。
こうして光太郎は厳しい試練を乗り越えてようやく新しい1歩を踏み出そうとしていた。
「光太郎、おぬしの仲間達じゃ」
市ヶ谷の防衛省中庭で整列した樹木の前で訓示台に立った光太郎苗木の前には、48本の、いや48人の自衛隊員が並んで光太郎に注目していた。
光太郎は漸く気付いた「嵌められた」と。
「お前ら、ニューヨークに行きたいかぁ!」
唐突に声を上げる光太郎。もはややけくそである。
統合幕僚監部直轄 特別任務部隊『植人』。
コードネーム『ドングリ』大隊長の石野光太郎 2佐は、仕返しとばかり前代未聞の訓示をするのだった。
「……ほぅ。やるようじゃの」
「……」
光太郎の訓示を聴いて不敵に微笑む久島一郎と憮然とした顔の御池。
久島次郎と三郎は笑いを堪えながら何処かへ電話を入れている。
「それでは、諸君らへの選別としてこれから儂らが一杯奢るわい。皆、付いて参れ」
二郎と三郎に耳打ちされた一郎は光太郎達に声を掛ける。
「ごっつあんです!」
勝利感に浸る光太郎であった。
訓示に立ち会っていた夏乃はその光景を笑顔で見ていたが目はどこか憐れみを浮かべている様に見えたたという。
【東京都新宿区歌舞伎町 BAR『ニューヨーク』】
「あらあらあら!可愛い盆栽ちゃん達!いらっしゃい!今夜は帰らせないわよん」
青々とした剃り残しの無い顎を撫でながらオトコの娘店長ジュゴンママが状況が判らず困惑する光太郎達を出迎える。
「えっ!?えっ!?」「隊長殿!此処はいったい……」「隊長のおっしゃっていたニューヨークとは一体」
困惑する光太郎に詰め寄る部下達。
「くそぅ、はめられた―!」
泣き叫ぶ光太郎の声を届ける会話装置は鉢植えから外されて水割りの入ったグラスの向こう側であり、誰にも声は届かなかった。
届くのは部下からの怨嗟の念話と久島二郎と三郎の高笑いのみだった。
大隊結成式の直後、全員が新宿のNHバー『ニューヨーク』に連行され、NHのチーママに朝まで可愛がられた事は部隊日誌には残念ながら記載されていない。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m




