救出
9月5日未明 【遼寧社会主義人民共和国(旧 中華人民共和国 遼寧省) 首都 瀋陽郊外】
瀋陽郊外にある一軒の何の特徴もない民家に10数人の日本人男女が居た。
年齢や服装もまちまちで誰もが疲労の色を濃くしてぐったりと休んでいた。
彼ら彼女らは旅行やビジネスで中国各地を訪問していたが「審判の日」の混乱と程なくして起きた中国内戦に巻き込まれて命からがらこの地まで逃げ延びたグループの1つだった。
途中で多くの同胞が暴徒に略奪されたり拐われてしまい、当初100人余り居たグループも10分の1にまでその数を減らしていた。
それでも彼らは諦めずに転々と潜伏場所を変えながら、電磁波攻撃から生き残った衛星電話やインターネット、スマホを駆使して日本本国との接触を試みていたのだ。
「……そろそろ予定の時間だ」
大使館に乱入した武装警察を倒して奪ったカラシニコフ銃を抱えながら、北京大使館付武官だった竹見1尉は仲間に告げる。
「合図が有るまで建物の中から出るんじゃないぞ!」
息を潜める皆の顔を一人一人見ながら声をかけていく。
暫くすると、微かなヘリのローター音が聞こえてくる。民家の周りは静かだ。
「……どうか、ちゃんと来てくれよ」
竹見武官は祈るように呟く。
竹見の懐にあるスマホが振動する。
『こちらツバメ、巣の上空、オクレ』
「こちらヒナ。巣立ちは予定通り、オクレ」
『了解、ツバメは巣の南側から侵入する。オーバー』
突然、民家の真上に漆黒のオスプレイが現れた。民家のすぐ南側に着陸すると同時に後部ハッチが開き、数名の完全武装した自衛隊員がこちらに駆け寄ってくる。
「こちらヒナ、北京日本大使館駐在武官の竹見1尉です!」
敬礼して駆け寄ってきた隊員に所属と氏名を告げる。
「ご苦労様です。特殊作戦群の澤城1尉であります。すぐに離陸しますので皆さんの誘導をお願いします」
既に民家に潜伏していた日本人男女達は次々と隊員の護衛を受けてオスプレイに乗り込んで行く。
「全員搭乗しました」
竹見が澤城に報告する。
「了解、帰還しましょう」
澤城が操縦士に母艦への帰還を命じる。
内戦と電力不足で荒涼とした瀋陽市郊外の民家から離陸したオスプレイは低高度を滑るように南西へ飛んでいく。
「……」
オスプレイ貨物室の窓から灯りの乏しい中国東北部の平地が流れるように過ぎ去っていくのを確認した竹見一尉はようやく一息をつくのだった。
4時間後、ロシア空軍の目を避けながら明け方の中国大陸を地上スレスレに飛行したオスプレイは、途中でF35戦闘機とも合流して護衛を受けながら北朝鮮共和国清津沖に待機していた護衛艦『いずも』に帰還した。
竹見達日本人10数名の1か月半余りの逃避行は終わりを告げるのだった。
この日、海上自衛隊、航空自衛隊からなる統合任務部隊と在日米国海軍の支援を受けた陸上自衛隊特殊作戦群は、中国各地で避難潜伏していた日本人グループ200人余りの救出に成功した。
中国に渡航していた日本人の1%に満たない数だった。
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