欧州前線にて
8月29日【ドイツ連邦共和国 フランクフルト郊外 NATO軍 前線司令部】
ロシア連合軍が怒濤の勢いでウクライナからポーランドまでの諸国を占領、併合し、オーデル川でNATO防衛軍と攻防戦を繰り広げてから1か月が経とうとしていた。
当初は''訪問者''ポピガイの能力による遠距離火力支援や、研究途中の植人検体を搭載した戦車や装甲車で何度もNATO軍防衛線を崩壊寸前まで追い込んだが、ドイツの''訪問者''シュタインハイムと最近戦場にふらりと合流してきた新たな''訪問者''メルトリンガーの参戦により双方の戦力は拮抗、膠着状態となっていた。
メルトリンガーは太古の昔にドイツの片田舎に落着して永い期間眠っていたが、この世界大戦で片田舎の人々が郷土防衛隊として次々と戦いに身を投じ散っていく際の思念が積もりに積もって、目覚めてしまったのであった。
『阻止砲撃終了。依然として敵機甲師団は進行中』
「ヤー。薙ぎ払う。塹壕で頭を低くしてくれ」
司令部からの通信に答えるシュタインハイム。
「……懲りもせずまた来るか」
目を細めて戦車を先頭に迫るロシア連合軍を見据えるシュタインハイム。
「ふんっ!」
シュタインハイムは両足を地面に当てて踏ん張ると、迫りくるロシア連合軍機甲師団に向けて薙ぎ払うかの如き仕草で右手を振り払う。
シュタインハイムを圧倒的な物量で踏み潰そうとしていた多数のロシア軍最新鋭戦車T90や装甲兵員輸送車が、衝撃波の如く発生した竜巻に巻き込まれて空高く巻い上がって敵陣後方へ吹き飛ばされていく。
「……はぁ、はぁ」
「……そろそろ休んだらどうだ?」
ルトリンガーが息を切らすシュタインハイムに声をかける。
「かたじけない。少しこの場をお願いしてもよろしいか?」
「任されよう。後方で美味い白樺の樹液が飲めるぞ」
僅かに口端をニヤリとさせたメルトリンガーがシュタインハイムを労う。
前線司令部でタンク一杯の白樺シロップをゆっくりと口に含みながら、シュタインハイムは3日ぶりの休息をとった。
メルトリンガーという援軍によりシュタインハイムはこうして適度に消耗した能力を回復して、英気を養う事が出来るようになった。
「そろそろ我らも打って出る場面か?」
ロシア連合軍が戦列を乱して撤退していく様を見ながらシュタインハイムがメルトリンガーに尋ねる。
「……うむ。機は熟しつつある」
同じ光景を見ていたメルトリンガーが頷く。
9月1日、日本が植人との対話装置を完成させた翌日、NATO軍は秘かに対話装置を用いて結成していた「植人軍人」を中心とした機甲部隊と戦闘攻撃機部隊によりオーデル川の防衛線から、反撃に転じる事となる。
ヨーロッパにおける第三次世界大戦は新たな局面に入ろうとしていた。
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