英国の打ち合わせ
【英国 ロンドン市 ダウニング街10番地 首相官邸内 】
「さて、些か少しシナリオが違いすぎるのではないかね?」
首相のリンドバーグがケルトに訊いた。
「ええ、あそこまで跳ねっ返りが過ぎるとは思ってはいませんでした」
顔に失望感を滲ませたケルトが答える。
「l今回の顔合わせは人類の危機に瀕し火星文明と手を結び、新たな時代の幕開けになるのではなかったのかね?」
「ポピガイやクイーンはそれぞれ、生物が生きる場所としては過酷な環境に永年おりました。進化の課程では、より熾烈な生存競争が必要だと考えたのかも知れません」
リンドバーグの追及に応じながらケルトは、過去の苦い経験を思い出していた。
12000年前、現在の大西洋上にその大陸は在った。
高度な科学文明と強大な軍事力を持ち、世界の覇権を手にしようとしていた国家の名前はアトランティスと言う。
しかし彼が''偶然''その地に''降り立った''為に僅か一晩でその大陸は海底に沈んだ。
アトランティスから命からがら脱出に成功した哲学者プラトンの目には、光輝く流れ星が巨大な破壊を引き起こしたようにしか見えなかったのだろう。
「神の怒りに触れた」と彼がアトランティスの伝承に書き加えてしまったのも分からないでもない。
多くの命と前途ある文明の未来を奪った事に反省した彼は、そのまま沈んだ大陸と共に永い眠りについていた。
しかし3500年前にローマ帝国が現在のイングランドに侵略してきた時、覇権国家の人間がもつ強大な思念により彼は目覚めてしまう。
そして海底からイングランドに上陸した彼は、新たな文明による帝国が勃興していた事を知る。
人類への贖罪として彼は火星時代からアトランティスへの到達、沈没から今日に至るまで知りうる限りの知識と技術を一冊の本にまとめた。
その本は『ヴォイニッチ手稿』とも呼ばれ る。
しかし、当時のローマ帝国ではそのあまりに飛躍した思想や技術の数々が「異端」とされ手稿が活かされる事はなくやがてローマ帝国は衰退していった。
再び絶望した彼は今度は「ストーン・ヘンジ」と化して地上で静かに人々の暮らしを遠くから見守るだけとなった。
1940年代、第二次世界大戦の戦禍がイギリスを覆った際に再び目覚めた彼は自らを人の姿に変え、名前をストーン・ヘンジを造ったとされる原住民「ケルト人」にあやかってケルトと名乗り、人類社会の中で少しずつその知見を活かして王立アカデミーに入った。
これ以上の失敗は自分が関わった原因で命を失った人々に 対しての裏切りである。
そう思ったケルトは今回の危機に於いてあくまでも人類の側に立って、自らを犠牲にしてでも人類の進歩に貢献せねばならない。
ケルトは固く誓っているのだった。
ケルトはリンドバーグに提案する。
「日本国政府と日本の訪問者クシマに連絡を取り、彼らと手を組みましょう」
ケルトは知っている。
太古、同じ時期に太平洋に沈んだ大陸がある。そこにクシマが降り立った事を。
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