久島と総理の対話
光太郎ドングリが官房長官の須賀に連れられて別室で事情を聴かれている間も、総理大臣の日向は引き続き久島達と対話を行っていた。
久島 一郎は異常事態について、宇宙から力を振るった存在やヴォイニッチ手稿の作者については''ぼかしながら''説明していた。
今はまだ、その時ではないと判断したからだ。
一郎の説明が進むにつれ日向の表情はだんだんと険しくなり、彫りの深い顔に影が増していった。
「それでは、今回の異常事態(審判の日)はあなた方のお仲間が関わっていると解釈してよろしいのですね?」
日向は厳しい顔で一郎に確認する。
「そうじゃ。儂らの同胞がおぬしら人間の行く末を案じて手を打ったということになるの」
一郎は澄ました顔で抹茶をずずっと飲んで答えた。二郎と三郎は日向の剣呑な雰囲気にも関わらず、抹茶と羊羮を堪能している。
「どれほどの人間が世界中で命を落としたと思っているのですか!
あなた方のした事は人類に対する介入、内政干渉ですぞ!」
テーブルをバンと叩いて怒りを顕にした日向が一郎に詰め寄った。
「おぬしらだけではいずれ人間以外も巻き込んで滅んでしまうじゃろう。いつまで同族で争いこの星の環境を破壊し続けるのじゃ。どれだけの動植物が滅びに瀕しておるのか分かっておるか?」
一郎は続ける。
「おぬしらは世界をより良くする知恵も技術もついてきたと言うに。なぜ、''そこ''をやらずに自分達の事だけ優先するのじゃ」
一郎の指摘に日向は言葉を詰まらせるがそれでも、
「地球の事は人類が自主的に責任を持って決めるべきだ!」
と言わずにはいられなかった。
「じゃがそれはおぬしら人間が勝手に思っているだけじゃろ」
一郎は素っ気なく日向の抗議を切り捨てる。
「儂らのした事も決して正しい訳ではないがの」
「むしろおぬしの言う通り、地球に迷惑を沢山かけ続けておるの」
一郎は遠い目をして少しの間目を瞑った。
「じゃからこそ、次は失敗しないように知恵を絞って考えたのじゃよ。
少なくとも植人はおぬしらにとって重荷ではないぞ。むしろおぬしらの未来をより良く明るくするものじゃと儂は思うがの」
日向は無言で一郎を見つめたままだ。
「儂は植人とおぬしらの''共生''が地球にとって有益なものに成るよう手助けをさせて欲しいのじゃ」
「同じように考える儂らの''仲間''も少なくない。そろそろ世界中でおぬしのような立場の人間に出会っておるじゃろうて」
一郎は真っ直ぐに日向の顔を見つめ、
「ここは前に進んで、新しいより良い世界を造ってみんかの?儂をこきつかっても構わんのじゃよ?
やってみて駄目ならば儂らはもう干渉せん。この星から去るだけじゃ。どうか考えてもらえんかのう?」
''初めて''一郎がこの手の話で''人間に''頭を下げた。
日向は険しい顔のまま、頭を下げ続ける一郎を見ながら考え続けていた。
久島達のやり方は傲慢で人類を蔑ろにしていると言って過言ではないだろう。
しかし審判の日は来てしまった。植人と化した国民の保護に久島達の協力は不可欠だ。後は、他の国々がどのような判断をするかだ。
「久島さん達のお考えは分かりました。私としては正直割りきれない所が有るのは確かです。しかし、このままでは更に事態が悪化すると思っています」
「詳細は他の閣僚達とも相談して決めたいが、基本的にはあなたの考えに乗るしかないようだ」
「それと他の国々がどのような判断を下すか知っておきたいのです。幾つかの同盟国と話し合う場を持つので、出来れば同じような考えの国と進めていきませんか?」
一郎は目を細めて微笑みながら、軽く頷くと
「それで充分じゃ。
おそらく儂と同じ考えの''仲間''もその場に出てくるじゃろ。厚かましい願いですまんが儂らも同席出来る機会をもらえんかの?」
日向に申し入れる一郎。
「機会を作る事にしましょう」
こうして日向と久島達の最初の対話が終わった。
7月29日、日米両政府の呼び掛けにより、非公式のG8サミットが秘密裏に軍事衛星回線で行われる事となった。
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