聴取
7月27日午後1時 【東京都千代田区永田町 首相官邸内】
応接室を出た官房長官の須賀と彼の手に握られた種子の光太郎は、官邸地下にある危機管理センター隣の会議室に移動した。
会議室には数人の高官らしき人物が居たが彼らは軽く頷くのみで須賀も彼らを紹介するでもなく、会議室の椅子に座って右手を机の上に乗せると、掌を上に向けた状態で光太郎に念話で此処に来るまでの経緯を聴き始めた。
光太郎はバスに乗って通勤中にヴォィニッチ手稿の一節を唱えた瞬間に意識を失い、気が付くと樹木と化していたこと。
周囲の乗客達は大半が諦めてしまい、溶解したり物言わぬ樹木と化してしまったこと。
バスから脱出して山岸夏乃に逢うために鳥や虫に話しかけたこと。
燕と化した久島達が自分の木に羽を休めるために来たこと。
久島達を東京へ案内するにあたり、念話や花から果実に成って移る修業を受けたこと。
久島達に咥えられて、首相官邸に来たことを懸命に語った。
須賀は目を瞑って光太郎の念話を聴きながら、途中で何度か質問を挟みつつも、光太郎の境遇にただただ衝撃を受けていた。
光太郎の¨冒険¨は充分に驚愕に値する経験だが、日本全国に無造作に拡がった真新しい緑の小山が皆、光太郎のような境遇に今も置かれている事にも。
「よくわかりました。石野さん、ここまで本当にご苦労様でした」
須賀は心から光太郎を労った。
「ありがとうございます。私がここまで来れたのは、師匠の一郎さん達のお陰ですよ」
「何か欲しいものはあるかね?」
須賀がドングリの光太郎尋ねる。
「あ、喉が乾いたので冷たいお水をお願いします」
秘書官の一人が持ってきたコップを見て、ドングリの光太郎はピョンとジャンプしてコップの冷たい水面にダイブした。
冷たすぎて息が出来なくて、溺れかけて水をたくさん飲んでしまった光太郎であった。
コップの中でぐるぐるとゲンゴロウのように泳ぎ回る光太郎を見た須賀と秘書官達は、彼が喜んでいるのだろうと思って微笑ましく眺めていた。
やがてドングリの動きが鈍くなりお尻を上に浮き上がったドングリを見て異変を感じた須賀が慌ててコップの水を床に落として光太郎を「救出」するのだった。
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