第六話 「お前に会えて良かった」
(…やっぱり)
先日一対一で戦った時よりも格段に緑間の動きは良くなっているし、反射神経も比べ物にならないほど活性化している。
一つ一つの動作に無駄がなく、攻撃にキレもあるし―とても同一人物とは思えないな、と響は心の中で苦笑した。
本当に、この人には静さんが必要なんだと思わされる。そしておそらく、静さんの方もそうなんだろう。
女性の肉体では色々と勝手が違い、不自由なのではないかと踏んでいたのだが―そんなハンデを微塵も感じさせない身のこなしや立ち回りを、たった数分で見せ付けられてしまって、響としては脱帽せざるを得ない状態であった。
二年前と同じ―否、それ以上だ。
(本当に、二人合わせるとおっかないなあ)
響は飛んでくる拳をひょいっと首だけでかわし、その相手―つまりは緑間の、今しがた伸びてきた右腕を強く握り、背負い投げを食らわせようとその百八十センチ弱の長身を持ち上げた。
だが、それが成功する手前で、優の手を掻い潜ったらしい赤崎に響は足払いをかけられる。
バランスを崩した響は、背負い投げが不完全の状態で、緑間を放り投げる結果となった。
放り出された緑間は、くるくると宙を三回転し、綺麗に着地した後それとほぼ同時に響へドロップキックを放った。
そして、赤崎の左足が高く持ち上がり、響の脳天に向かって、かかと落としがくり出される。
バランスを崩ししゃがみ込んでしまった響だったが、すぐさま地面に手をついて態勢を立て直し、咄嗟の判断で両腕を頭上で交差させ、赤崎の攻撃をうまく受け流したが―背後から放たれた緑間からのドロップキックには、気づかなかった。
だが―あちらが二人であるのと同時に、こちらも二人であるということを忘れないでほしい。
素早く響の背後に回った優が、緑間の蹴りをガードする。
響と優はアイコンタクトの後に小さく頷き、同時に赤崎と緑間の足を押し戻した。そして、二人は背中合わせの態勢を取る。
やはりケンカは、背中合わせの方が楽だ。
「サンキュー優」
「礼はいい。―来るぞ」
ぶっきらぼうな声が背中越しに聞こえて、響は神妙な面持ちで頷いた。
そして思う。
あの時は、琴乃が後ろにいた。
けれど今自分と背中を合わせているのは―最愛の妹ではなく、優だ。
だが、不思議なことに、やりにくさというものは感じなかった。多少の違和感くらいはあるだろうと覚悟はしていたのだが―本当に、まるで琴乃が後ろにいるかのような、自由な感覚だ。
動きを合わせているわけでも、合わせられているわけでもない。だが、響には優がどう動きたいのか、それこそテレパシーさながらにわかった。そしてそれはおそらく、優の方も然りだ。
だからどれだけ自由に動いても、必ずフォローし合えるのだろう。
思えばあの時―五十人相当の不良を相手に一緒に戦った時も、そうだったような気がする。
(あの時は認めたくなかったけれど)
あの時、確かに僕は、あんな状況下に置かれていて思うことではないとわかっていたけれど、それでも―不謹慎だと思いつつ、“楽しい”だなんて、思っていたんだ。
(今も、こうして尊敬する二人の先輩相手に優と一緒に戦えることが、すごく嬉しくて、楽しいんだよ、僕はさ)
『響さ、変わったね』
そうだ、僕は。
お前に出会って、変わった。変われたんだ―こんな僕でも。
(なあ、優)
僕のことを、覚えていてくれてありがとう。
僕のことを、見つけてくれてありがとう。
僕のことを、信じてくれて―ありがとう。
(本当に僕は、数え切れないほどたくさんの“ありがとう”を貰ったよ)
きっと優は、僕の“ありがとう”を受け取りはしないんだろうけれど。
どうせいつものように―“俺が望んでやっていることだ”とでも言うんだろうけれど。
それでもやっぱり、多分僕は、お前のそういうところにも救われていた。
優が、綺麗なフォームで緑間の腹部へと蹴りこんだ。
モロその攻撃を食らった緑間は、う゛っと呻き声を漏らしたものの、なんとかその場に踏み止まり、がしりと腹部にめり込んでいる優の足を両手で掴んだ。
そしてあろうことか、回転し始めたのである。
その結果、三百六十度、優の体は掴まれた足に引っ張られるような形で宙に浮き、遠心力を伴って回る。
十回程度回転したところで、緑間が「避けろ!」と叫んだ。
勿論それは、響の相手をしていた赤崎に対して放たれた言葉だ。響は右拳を突き出したが、なんなくいなされてしまい、そのまま赤崎に距離を取られる。
そして。
緑間が、ぶんぶんと振り回している優を、勢いよく響の方へと投げ飛ばした。
(―避けるか、否か)
そんなことは、考えるまでもない。
「っ避けろ!響!」
それでもきっと、お前はそう言うだろうと思っていたよ。
「バカ言うな―避けられるわけないだろ!」
ほんの少し前の自分なら、こういう局面で、琴乃以外の誰かを庇おうだなんて思わなかった。迷うことなく避けていただろう。
だが、自分はもう―あの頃とは違うのだ。
ここで避けてどうする。
響は、がばっと大きく両腕を広げ、優を受け止める体勢を取った。
すさまじい勢いで投げ飛ばされた優は、圧倒されてしまうくらいの猛スピードで、響目掛けて一直線に向かってくる。
鈍い音と共に、響は優と正面から衝突した。
勢いに押し負け、優共々後方へと吹き飛ばされる。
元いた位置より五メートルほど後ろに立っていた電柱に強かに背中をぶつけ、呻き声にも似た声が響の口から漏れた。
そのままずるずると座り込む。肺から一気に酸素を搾り取られたような感覚だった。
じんじん、と鈍い痛みが響の背中に広がった。正直かなり痛い。頭を打たなかったことが、本当に不幸中の幸いだった。
「響、おい、響…!大丈夫か!?」
響の体がクッションとなり、ほとんどダメージを受けなかった優は、我に返り状況を把握すると、ひどく狼狽した声で強い打撃を受けた響の体をゆすった。
大丈夫か、と聞かれると、正直あまり大丈夫とは言えない。もしかしたら、骨にヒビくらい入ったかもしれないと響はぼんやり思った。
(痛い、)
ズキン、ズキン、という鈍痛に気を抜けば気絶してしまいそうで、一瞬意識が遠のく。いっそ、気絶した方が楽なのではないかとさえ思った。
そんな響の様子を見兼ね、先ほど拳を交えていた時とは打って変わった、焦燥した表情を浮かべてこちらに駆け寄ろうとする赤崎と緑間。
「来ないで下さい!」
だが響は―そんな二人を、強く糾弾した。ぴたりと、二人の足が止まる。
「人の心配を…している暇が、あるんですか」
痛みで顔が引きつっているだろうことが容易にわかったが、それでも構わず響は二人に向かって笑ってみせた。
「…響、」
名前を呼ばれて、響は「ん、」と小さく返事をする。
真友があまりにひどい顔をしていたので、思わず呻き声と一緒に苦笑いも零れた。
(そんな、世界の終わりが訪れた、みたいな顔をするなよ)
頼むから。
「…大丈夫、だから。そんな顔を、するな」
「大丈夫って言ったって、お前…だって、今」
優が、顔を真っ青にして体を小刻みに震わせている。そして、「すまない」と俯いた。
責任を―感じているのだろうか、と響は思う。
(バカだなあ)
謝る必要はないのに。
だってこれは、ただ僕がやりたくてやったことで、僕はそれに対する代価を払っただけにすぎないのだから。
「謝らなくていい。でも、だから…後生だから、止めてくれるな」
途絶え途絶えに、響はそれだけを振り絞る。
この戦いは―この勝負だけは。
こんな煮え切らない最後で締めたくない。
僕は、僕が一番望む最後で終わらせなくちゃならない―僕の“未練”を。
だから、中途半端に途中退室だなんて、そんなのはごめんだ。
(そうじゃないと、合わせる顔がないじゃないか)
僕の帰りを待ってくれている、彼女に。
響はよろよろと立ち上がり―否、立ち上がろうとしたが、うまく立てなくて足を縺れさせてしまい、再びその場に座り込む破目となる。
すると、声をかける前に優が立ち上がった。
「…掴まれ、アホ真友」
「はは…サンキュー真友」
響は差し出された優の手を強く握り、そのまま引き上げてもらう。
たったそれだけのことで、既に響の体はぎしぎしと軋み、悲鳴を上げた。だが、唇を必死に噛んで、声を上げることだけはなんとか堪える。
痛みは、全て終わってから吐き出せばいい。
「まだやんのか?…その体じゃあ、もう満足に戦えないんじゃねえの?」
もう満足に戦えない体にしてくれやがったのはアンタでしょうが、と内心で響は毒づいた。
だが、その挑発的な物言いの裏側には、きちんと“心配”の二文字があることに気づいていたから、結局響は嫌味の一つも言えなかった。
「…これくらい、どうってことないですよ」
痛みに堪えつつ、あくまで平静を装う。
すると、まるで響がそう言うとわかっていたかのように―それでも少しだけ心配げな目をしながら、緑間がにやりと笑った。
「そーかい。なら―」
続行だ。
優が、響を庇うような形で緑間達と向かい合った。なんとなく、彼の性格上こうなるだろうとは思っていたが、こうも露骨だと嘆息してしまう。
優が、緑間に向かって突きを放った。
「あめーよ」
だがそれは、緑間になんなくいなされてしまい、そのままその手が握りこまれる結果となる。ミシミシと、優の拳から骨の軋む音がした。
そして。
何日か前に響にやったのと同様の頭突きを、緑間は思いっきり優に向かってかましたのである。
ゴンっという鈍い音共に、優の上半身が後方へと傾いた。だが―それだけでは終わらない。
その一瞬を逃さず、女性の細い足を目一杯後ろへ引いた赤崎が、優の脇腹めがけて弧を描くように蹴り出した。
咄嗟に左脚を折り曲げてその攻撃をガードしたものの、勢いを相殺しきれずに優はズザザザザと後退する。
「…さすがに、二対一は分が悪いな」
「当たり前。てか、僕を庇おうだなんて百年早いよ、バーカ」
バーカと同じタイミングで、響は後ろから優の膝裏に自分の膝を押し当てた。俗に言う、ひざかっくんというやつである。うわっと声を上げて優がバランスを崩した。
「いきなり何だ…」
「んー…お仕置き?」
「気持ち悪い言い方をするな…それに、俺を庇ったお前にだけは言われたくない」
響は、一歩前に出る。
優の隣りに立った。
「じゃあ、おあいこってことで」
「何がおあいこだ。だったら俺にもひざかっくんをさせろ」
「それとこれとは話が別。ほら、早く立つ。行くよ」
そう言って、響は二人目掛けて飛びかかっていく。少し遅れて優もそれに続いた。
そうしてまた拳を交え、その最中。
ふと、響は思い出す。
(あの日)
二年前のあの日―あの時は確か、静さんだった、と。
二年前の夏。あの日のことは本当によく覚えている。それはさながら、昨日のことのように。
響と琴乃、つまりは「壊す双子」が赤崎達と初めて出会った日のことだ。
あの日は確かひどい猛暑で、風もなければ雲もなく―本当に、今日のような真っ青な青空が広がっていた。
出会いはここ、仲良し広場で。
それはそれは偶然、響達はばったりと邂逅した。
あの時彼らは、ここで待ち合わせの約束をしていた優のことを待っていた。
そうしたら、一人の女の子が不良達に囲まれているのを目撃して、何故だかそれが気に入らなかった二人は、その少女のことを助けるような形で、不良達にケンカを売った。
そしてその結果、その不良達にトドメをさそうとしたその手前で、下校中だった赤崎達に止められたのだ。
(もしもあの時、僕達「壊す双子」が、変な気まぐれを起こしていなかったら)
不良達に絡まれていた、あの少女のことを助けていなければ―おそらく、彼らがあの高校に進学することも、「壊す双子」の名を捨てることもなかっただろう。
(あの時、)
今しがたの響同様に、赤崎の方が電柱に思いっきり衝突した。今回響は背中のど真ん中をぶつけたのだが―赤崎は確か、左腕にダメージを食らったのだ。
それでも彼は飄々として、いつものような涼しげな表情をしていたので、大したダメージを被ったわけではないのだろうとあの時響は思ったのだが、後から聞いた話によると、その時既に左腕にはヒビが入っていたらしかった。
しかも、そんな状態で殴り合いのケンカを続行したものだから、最終的には左腕は骨折してしまったのだと聞いている。
あの時とは、立場が逆だった。
(…それでも、それを理由に、僕が勝負を放棄するわけにはいかない)
あの人は、言わなかったから。
左腕の負傷を理由に、勝負を放棄しようとは言わなかったから。
僕らは惨敗に近い負け方をして、あの時の“負け”が、現在に繋がっている。
一度目に変わるきっかけをくれたのは、優だ。
そして、僕らに二度目の変わるきっかけをくれたのは。
(この人達だった)
僕に、本当の強さというものを教えてくれた、陽だまりのようなあたたかさで、いつも僕らを包み込んでくれていた祭さん。
僕に、生きる意味を教えてくれた、最後まで先導者であり続けてくれた静さん。
この人達のようになりたくて―なりたくて、なりたくて、なりたくて。
(だから僕は、)
どれくらい時間が経っただろう。
体力の消耗が激しい。背中の痛みに関しては、感覚がほとんど麻痺している為痛みらしい痛みは既に感じないものの、体が重いことははっきりとわかる。
それはどうやら響だけではなさそうで、隣りにいる優の方も、そして向かい合っている赤崎と緑間ですら、呼吸を乱し首筋や額からは汗が噴き出ている。
状況としては、圧倒的とまではいかないものの、赤崎達の方が有利なことに違いはなかった。
響はやはり序盤に受けた背中へのダメージが致命的で、そのおかげでかなり動きが鈍くなっており、攻守共に成功率が下がってしまっている。最早立っているのがやっとという状態だ。
優の方は、やはりそんな響を庇おうと身を挺しているわけで、響ほどではないにしろ、彼も十分ボロボロだった。
対して赤崎は、ほとんどダメージらしいダメージを負っていない。
女性の体なので体力が乏しく、動きが多少鈍くなってはいるものの、それを除けば勝負開始時とさほど変わりなかった。
対照的に、緑間の方は優並み…とはいかないものの、それなりにボロボロだった。
理由は、彼が赤崎よりも劣っているから―などではなく、単純に緑間が、赤崎の方へ放たれた攻撃全てを、自分の体を張ってガードしているからだ。
つまるところ、赤崎が無傷に等しい理由は、八割方緑間のおかげなのである。赤崎の体は借り物なので、傷つけてはまずいからだろう。
「うっ…」
と、そこで赤崎が小さく呻いた。眉間に皺を寄せ、こめかみの辺りを押さえる。
「なんだよ、“うっ”って…顔色悪いぞ、お前」
口の端から流れている血を拭いながら、呼吸を整えつつ緑間が赤崎に言う。
「もう、あまり時間がないみたいだ。これ以上は…うん、まずい」
「はあ?どういう意味だよ、そりゃあ」
「―もう、そんなに時間、経っていたんですね」
二人の会話に割り込むような形で、響は静かにそう言った。
まだ二十分くらいしか経っていないだろうと思っていたのだが、どうやらもうかれこれ小一時間、自分達は戦っていたらしいと、響は苦笑いを浮かべる。
緑間と優がどういう意味かと目で訴えると、響は赤崎の代わりにそれについて説明した。
「今静さんは、その体の持ち主…遥さん、でしたっけ?その人の体を借りている、つまり、乗り移っている状態なんです。でも、その状態が長く続くと…静さんは、体ではなく、遥さん自身にとり憑いてしまうんですよ。自分の意思とは、なんら全く関係なしに」
「それは…まずいことなのか?」
今この場にいる中で最もそういった類のものに疎い優が、響に聞いた。神妙な面持ちで、小さく頷く。
「まずいことだよ…乗り移るんじゃなくて、とり憑くんだから。とり憑いてしまったらもう自分の意思ではどうにもできないし、とり憑かれた人間、この場合は遥さんになるな、彼女は徐々に静さんに生気を奪われ、衰弱する」
「!」
そうなったら、もうお終いだ。
浮遊霊である赤崎は、やがて遥の生気を絞りつくし―彼女は死に、その吸い取った生気によって、浮遊霊ではなく、悪霊へと成長してしまうだろう。除霊するしかなくなる。
だから響はあの夜、緑間に言ったのだ。いなくならないでくれ―と。
霊媒体質であることを緑間は、“引き寄せる”体質だと言っているが、実際それは誤りだ。霊媒体質とは本来、霊にとり憑かれやすい体質のことを指す。
つまり―赤崎は引き寄せられたわけではなく、緑間自身の霊媒体質によって、再会したあの日以降、ずっととり憑いていたというわけだ。
一時期お互いから離れることが出来なかったのは、おそらく赤崎が完全にとり憑ききれていなかったからだろう。そしてそれは勿論、赤崎の意思とは全く関係がない。
赤崎は、今日までずっと、緑間の生気を少しずつ奪っていたのである。
そして緑間は、それに気づいていた。おそらくもう、既になんらかのダメージは受けているだろう。
視界が暗転したり、足元が覚束なかったり、ひどい頭痛に見舞われたりなどしていても、おかしくはないと響は思っている。
だが彼は―その痛みを、甘んじて受け入れようとしている。
否、受け入れようとしていた、というべきか。
どちらにせよ、このままの状態が長く続けば―。
「…あとどんくらいいける、静」
「……十分」
そういうわけで―どうやらこの時間は、あと十分足らずで終わりを迎えてしまうようだ。いや、十分も時間がもらえたのだから、ここは喜ぶべきなのか。響はぼんやりとそう思う。
緑間が響達の方を向く。
「っつうわけだ。悪いな、こっから先は、制限時間有りだ」
ま、お前らからしてみれば好都合なことかもしんねえけど、とやはりどこか挑発的な物言いを緑間はした。満身創痍の響には、もう渇いた笑い方しかできない。
「はは…意地でも後悔させてやりますよ。十分、僕らに時間をくれたこと」
響は優の方を見た。彼は、肩で息をしながら体中にたくさんの傷を負って、自分の隣りに立っている。今にも倒れてしまいそうだった。
辛いだろうな、と響は思う。この戦い、響には意味があったとしても、優には全くの意味がない。意味がないどころか、迷惑極まりないに決まっていた。
だから本当に、これはどこまでも響の我儘だった。
「…巻き込んでごめんな」
ぽつりと、そんな呟きが響の口から零れる。それを聞いた優が、一瞬だけ驚いたような顔をして―それから。
半ば呆れたように、「前にも言っただろう」と溜息と共に吐き出した。
「全部、俺が自分の意思でやっていることで、お前の隣りにいることを、俺自身が望んだんだ。見当外れの謝罪は、お前には必要かもしれないが、俺には必要ない」
(本当に)
本当に、どこまでも馬鹿みたいに正直な奴だった。
視界がじわりと滲んだので、響はぐいっとYシャツの袖で目元を拭う。最近はこんなことばっかりだ。
本当に、敵わない。
お前は、一体、どこまで僕を。
「なあ、優」
響は倦怠感の拭えない体を奮い立たせ、体勢を低くしてぎゅっと拳を作る。
「なんだ、響」
短く答え、優も構えた。
その言葉は、本当にすんなり、響の口から零れていった。
「お前に会えて良かった」
「俺もだ」
二人は目配せの後に頷き合い、駆け足で同時に赤崎と緑間へと向かっていった。




