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さよならの続編  作者: 軌跡
第五章 “休”
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第四話 「閑話Ⅲ」

 翌日、八月五日。現在の時刻は正午を少し過ぎた頃。

 ちょうど、四時間目の授業が始まったくらいの時間であった。

 もっとも、只今緑間たちの通う高校は絶賛夏休み中である為、授業を受ける必要もなければ学校に登校する必要もないわけだが。というか、ないのだが。

 どういうわけか、緑間(と赤崎)は制服を着て学校にやって来ていたのだった。


 学校に着いた緑間が初めにしたことといえば、それはまず自分のクラスをぐるりと見渡すことであった。勿論というかなんというか、教室には誰もいない。

 次に緑間は、赤崎の机の上に夏休み前から長らく置いてある花瓶に目をつけた。挿されている花は、若干枯れてきている。面倒を見る者がいなかったのだから、当たり前だ。

 緑間はその花瓶を水道まで持っていき、中の水を取り替えて花瓶を軽くゆすいでやる。そして自前に用意してきた花を、前に挿されていた花と一緒に挿し、再び赤崎の机に戻した。放っておくとすぐに枯れてしまうだろうから、また近い内に来ないとな―などと思いながら。


 次に緑間が向かったのは屋上である。普段鍵はかかっていないのだが、夏休み中ということで屋上が使用されることはまずなく、そのせいかしっかりと鍵がかけられていた。

 これはいささか予想外の展開であったが、先生に言うと事の外あっさり開けてもらえたので、緑間は拍子抜けした。

 それを頼んだのが緑間以外の生徒であれば、おそらく鍵は開けてもらえなかっただろう。少なくとも彼は、彼が思っている以上に、生徒だけでなく先生からも厚い信頼を寄せられているというわけだった。


 無人の屋上で緑間が取った行動とは、驚くことにお弁当を食べることであった。

 出来ばえ上々、いつもより簡素な感じは否めなかったが、それにしたって大分腹の中に溜まりそうなお弁当を、しかも二つ、緑間は屋上で一人食べた。黙々と、ただひたすら。

 彼が食べた二つのお弁当の内一つは、勿論赤崎静の為に用意されたものである。

 赤い弁当箱と緑の弁当箱。赤い巾着と、緑の巾着。

 用意された弁当は二つあるにも関わらず、屋上にはやはり緑間しかいなかった。赤崎はそこに居る(・・)のではなく、ただ在る(・・)だけの存在であったから。

 弁当を食べ終えた緑間は、屋上のフェンスから身を乗り出して、力の限り叫びつくした。

 それはもう、日本中に響き渡るのではないかと思ってしまうくらいの大声で。言葉にならない言葉を、吐き出すように叫んで消化した。

 グラウンドで部活動に勤しんでいる野球部やサッカー部からすれば、それは迷惑にもほどがある強行であっただろう。


 屋上の扉を施錠した緑間は、鍵を職員室へと返却して、次に生徒会室の鍵を借りた。

 これもまた、緑間が生徒会長であるということで、あっさりと鍵を拝借することができ、彼は久方ぶりにその部屋へと入る。お世辞にも、整理整頓が施されているとは言いがたい有様であった。

 緑間と優以外は全員、片付けるや整理するなどといった美化精神を持ち合わせてはいなかったものだから、優と手を組んで(?)、初めの頃はなんとか清潔に保とうと、ひたすら散らかされていく生徒会室を掃除していたのだが、ああも片付ける端から汚くされていては、意味もやる気もそがれていくというものだ。

 最近ではすっかり緑間も散らかす側に回っていた為、生徒会室の清潔をかろうじて守ってくれていたのが優だけだというのだから、こういう状況になってしまうのも仕方ないといえば仕方ないのかもしれなかった。

 そこで緑間は、ブレザーを脱いでその辺の椅子にかけると、Yシャツの袖をまくって掃除を開始した。 雑巾がけもしたし、窓ガラスも拭いた。とてもじゃないが、夏休みにわざわざ学校へやってきた生徒会長のすることではない。赤崎は理由を聞いたが、彼は「なんとなく」としか言わなかった。

 約一時間かけて掃除を終え、一時。綺麗に片付いた生徒会室を見渡して、緑間はふふんと得意げに腕を組んだ。


「一体…何がしたかったのさ」


 赤崎が聞いた。


 夏休みにも関わらず学校に登校して、教室に寄って、僕に供えられた花瓶の水を取り替えて、花を挿して。

 屋上に行ったら行ったで、突然お弁当を、しかも二人分も食べ始めて。

 食べ終わったら食べ終わったで、喉が潰れるんじゃないかって、見てるこっちがひやひやするくらいの大声で叫んで。

 散らかった生徒会室の掃除なんか始めちゃってさ。

 一体君は何がしたかったの、と赤崎は言う。


 それに対し緑間は、


「あー…いや、ただの気まぐれ。意味はねえよ」


 と言うだけだった。


 そう、ただの気まぐれだ。ただの気まぐれで、ただの自己満足で、ただの現実逃避だ。


 緑間は生徒会長の特等席に、いささか乱暴に座った。ここからは、副会長・書記・議長・会計…全員がよく見渡せる。

 書記はよく会計の仕事を妨害していたので、ほぼ毎日のように注意していた。議長の二人が仕事そっちの気でトランプでも始めたら、即没収愛のゲンコツをお見舞いしてやったりもした。

 副会長が。

 副会長が業務放棄をして惰眠を貪ってなどいたら、思いっきり頬をつねってやったりもした。

 仕事は全然はかどらないし、はかどらないからぎりぎりになって時間に追われたりもして、生徒会長は毎日溜息をついてばかりだった。そんな生徒会執行部だった。

 人選ミスったかな、なんて思うのは毎日のことだったし、お前ら真面目に仕事しろ、と怒鳴ることも、緑間にとっては日常茶飯事のことだった。

 だが、それでも。


「…なあ、お前さ。後悔してるか、生徒会に入ったこと」

「それはまた、随分と唐突だね」

「元はといえば、俺が勝手に巻き込んだことだからな。少し、気になってよ」


 そう―生徒会執行部に、赤崎を含めた五人を強引に引き入れたのは、緑間であった。



 緑間達の学校では、他所とは少し違う形で毎年生徒会執行部を決めている。その方法とは、“生徒会執行部会長のみを、選挙により決定する”というものだった。


 普通、生徒会執行部は、全校生徒及び教員による役員選挙によって決められる。だがこの学校は違って、副会長・書記・議長・会計の四席には、そもそも選挙自体が行われないのである。


 そして次に、これは最早嫌がらせに類するものでもあるのだが― “生徒会長に立候補した者は、誰一人例外なく、立会演説会にて中学から今に至るまでの成績、つまりは通知表を全校生徒の前で提示しなければならない”。


 成績があまりよくない者が立候補すれば、その人物は必要以上の辱めを受けてしまうというわけだ。

 これは、学校側による“成績の良い者を生徒会長にしたい”という、割と身勝手な方針のせいである。

 もっとも、成績を公表してまで生徒会長として精一杯業務に携わりたいという、強い熱意を持つ者に立候補してほしいから、という理由もあるらしいが…どちらにせよ、ひどい制度である。


 無論成績公表だけでなく、立会演説会というのだから、決意表明もする。私がもしも生徒会長になれたら~というやつだ。

 そしてその約三日後に生徒会長が決まり(この時点ではまだ公にはなっていない)、一週間後に「生徒会執行部その他役員推選集会」という全校集会が行われ、そこで初めて新たな生徒会長が公表されるのである。

 生徒会長に就任した者はステージに登壇し、挨拶をする。これで生徒会執行部会長選挙は終わりだ。


 では、他の役員についてはどうするのか―それは、「生徒会執行部その他役員推選集会」において、“新たに生徒会長に就任した者が、残る四つの空席を埋めるべく、生徒会執行部役員に適任だと判断した人物を推選する”のである。


 推選といえば聞こえは良いかもしれないが、これが結構理不尽なもので、生徒会長から推選された人物は、それに対して“拒否権を持たない”。

 つまり、推選された場合には、その人物は否応なしに無理矢理生徒会執行部の一員にさせられてしまうというわけだ。これほど理不尽な生徒会執行部の決め方はないだろう。

 もっとも、ほとんどの場合、役員になることを希望している人物が、生徒会長に立候補した者に「もしも生徒会長になったら自分を役員に推選してほしい」と頼むので、それは最早、“推選”とは呼べない代物であったに違いはないが。拒否権がないのはそのせいでもある。


 推選する側の生徒会長にもルールがあって、それは“副会長と書記には二年生を、議長と会計には一年生を、それぞれ推選しなければならない”というものだ。


 何故一年生を入れることが必須なのかというと、一年生の内から生徒会の業務に携わっていれば、二年生になった時にみんなをリードできるだろうという、これもまた学校側の思惑である。

 生徒会長に推選された者は、その場で生徒会執行部役員に任命され、同じようにステージに上がって一人一人挨拶をする。こうして生徒会執行部は決まるのだ。最早伝統であると言える。


 実をいうと、緑間も一年生から二年生の前半頃までは議長だった(望んで立候補したわけではない)。

 拒否権がないので渋々議長になったものの、業務に追われて赤崎や青子と一緒にいる時間は減る一方で、初めの頃は、自分を議長に推選した生徒会長を恨みさえした。俺は好きで生徒会の役員になったんじゃねえ!と、そんなことを緑間はよく言っていたものだ。

 だが、ある日偶然、本当にたまたま。

 生徒会室に忘れ物をした緑間は、その忘れ物を取りに戻って―そこで、生徒会長と副会長の会話を耳にしたのである。

 副会長は聞いたのだ、「何故緑間を議長に推選したのか」と。それは、常々緑間も気になっていたことだった。

 そしてそれに対し生徒会長は、「理由らしい理由を取り付けるなら、あの目を気に入ったからだな」と、そんな風に言ったのだ。


「初めてあいつを見た時、緑間の方も俺の視線に気がついて、一瞬目が合ったんだ。その時、ビリビリと電流のようなものが体中を走っていったように感じてな。戦慄…したんだと思う。年下相手に情けない話だがな…だからこそ俺は、緑間と関わってみたいとそう思った。あいつからすればいい迷惑だったと思うが、俺はやっぱり、あいつを推選したことに間違いはなかったと、今でもそう思っている」


 それを聞いた緑間は、忘れ物を取りに来たというのに、結局取りに行かないまま逃げるように立ち去った。

 本当に、いい迷惑だと思った。そもそも緑間は、生徒会長と初めて会った時のことなど覚えていない。だから余計、その言葉の意味がわからなかった。泣きそうになっている自分が、わからなかった。

 その日以来、なんとなく緑間の業務に対する取り組みの姿勢が変わり、変に逆切れすることもなくなった。とりわけ生徒会長と仲良くなったことは、言うまでもないだろう。

 そうして年が明ける頃には、生徒会の一員としての自分を誇りに思い、楽しいとさえ思うようになっていた。部活をやっていなかった緑間が、高校生になって初めてやりがいを感じたものだった。

 そうなると、卒業するまでの期間、生徒会執行部役員であり続けたいと思うのも、至極当然のことであった。


 緑間の中で理想とする生徒会執行部は、勿論緑間も含めた赤崎・青子・響・琴乃・優の六人であったのだが、全員にそれとなく話を振ってみても、返事はあまり良いものではなかった。要するに、全員乗り気ではなかったのだ。


 青子曰く、「生徒会長直々の推選だもの。全員が役員に推選されるとは限らないじゃない?万が一私だけとかになったら嫌だし」らしかった。言い分はまあ、わかる。


 そしてこれも指摘されたことであるが、現段階の生徒会では、六人全員が役員になるのは無理だった。

 生徒会長一名、副会長一名、書記一名、議長一名、そして会計一名…対して緑間達は六人である。

 この頃、緑間はまだ生徒会長に立候補する予定ではなかったので、厳密にいえば二人が生徒会執行部役員から外れてしまうというわけだ。


 響は、「僕らは二人で一人ですから」と言った。双子らしい言い分であった。


 一年生には本来、議長と会計の二席しか与えられていない。ならばその二席を白金ツインズに、と考えはしたが、あの二人のどちらかにでも会計業務を任せることは、あまり気が進まなかったし、そうなると優が弾かれてしまうことになる。それは出来れば避けたかった。

 二年生組もそうだった。与えられているのは、生徒会長と副会長と書記の三席。誰かが生徒会長に就任しなければ、一人余ることになる。

 どちらにせよ、六人全員が生徒会執行部役員になる確率は、低いどころか全くの皆無だったわけだが―その見解に希望を持たせてくれた人物がいた。

 その人物とは、その当時の生徒会執行部会長で、緑間のことを議長に推選した張本人であった。

 なんでも、役員である議長だけは、席を二つに増やすことができるとか(別に増やす必要はない)。

 どうやらそれは生徒会長の権限であるらしく、生徒手帳にはしっかりそれが書かれていた。生徒手帳など開いたことすらなかった緑間は、それを聞いて本当に驚いたのである。

 つまり六人の内、誰かが生徒会長になれば―全員が、役員の席にそれぞれ腰を据えることが出来るわけだ。

 そして、六人の内緑間以外は、生徒会執行部役員に立候補することに対して、消極的どころか遠慮している状態であった為、まあ、彼に残された選択肢は三つだけだった。


 生徒会を諦めるか、赤崎達を諦めるか―自ら生徒会長に立候補するか。


 この時既に、緑間の中で答えは出ていたのである。

 生徒会執行部会長。緑間としては、副会長辺りに就任出来ればと思っていたわけだが…これはこれで悪くないとそう思った。

 生徒会長になれば議長の席を一つ増やすことができるし、推選をすれば拒否権がないのだから、強制的にとはいえ全員を役員に就かせることができる。まさしく一石二鳥だろう。

 本当のことを言えば、本人達の意思を無視して事を強引に進めるやり方は、出来れば避けたいところであったが―緑間自身、全部が全部自分の我儘を通そうとしていたわけではない。


 何故なら、これは必要な経験なのだと確信していたからだ。

 それは主に赤崎と、白金ツインズにとって。


 もっとも、赤崎に関しては他にも理由があって、生徒会の業務に追われれば、少なくとも今までよりは、帰る時間が遅くなることもあるだろうと思ったからだ。そうすれば、あの居心地の悪い家にいる時間も、少しは減るだろうと。


 つまりはまあ、そういうことで。

 去年の九月頃、緑間は生徒会執行部会長選挙において、立候補を名乗り出た。


 ちなみに緑間の責任者は、前任の生徒会長が引き受けた。

 俺が責任者になろうと、緑間の立候補を聞きつけて、その人はそう言ったのだ。俺が責任者として、全力でお前を支持しようと。

 理由を聞けば、「俺のあとを任せられるのは、お前しかいないと思っているからだ」と。その言葉は少し気恥ずかしくて、それでもやっぱり嬉しかったことを、緑間は今でも覚えている。

 そして、生徒や教師からの人望と信頼が厚く、トップクラスの成績を持ち、尚且つ前生徒会執行部役員であった緑間祭は、圧倒的票差で無事生徒会執行部会長に就任。

 「生徒会執行部その他役員推選集会」にて、さっそく生徒会長としての権限を使いまくり―副会長に赤崎静を、書記に水沢青子を、議長に白金響と白金琴乃を、そして会長には黒銀優を、それぞれ推薦したのである。

 こういった経緯の上で、今の生徒会執行部は出来上がったのだ。

 つまるところ、徹頭徹尾、最初から最後まで緑間が無理矢理事を進めたということになる。



「後悔しているって言ったら、どうする?」


 勿論、そのことについて緑間は責められもした。当然だ、緑間は何も言わなかった。そして当日いきなり、生徒会執行部役員にされてしまったのだから。赤崎達が怒るのも無理はないだろう。

 まあ、青子だけは例外で、まるでこうなることを初めからわかっていたかのように、「面白そうじゃない、これはこれで」といたって楽観的に言ってくれたのだが。

 後悔していると言ったらどうするか、と赤崎は言った。その黒い瞳には、なんの感情も浮かんでいないように見える。


「どうもしねえよ」


 緑間は、あまり間を開けずにそう言った。そして、ぐるりと生徒会室を見渡す。霊であるくせに―赤崎はきっちり、副会長(じぶん)の席についている。


 色々なことがあった。


「青子のアホはすぐ優にちょっかい出すし、響と琴乃にいたっては、平気で業務放棄するしな。ぼりぼり菓子は食うし、しまいにゃあ大事なプリント類にお茶こぼしたりして、全員で怒られに行ったこともあったっけか。そんでお前はさ、なんかもう、ただ寝てただけだよな。ほんと、多分何もしてない。副会長にあるまじき怠惰だった」

「それはどうも…」

「仕事は全然はかどんねえし、はかどらねえから仕事は溜まってく一方だし。だから結局時間に追われて、昼飯食いっぱぐれることもしょっちゅうだったよな。そりゃあもう、溜息の連続だったっつうの。人選ミスったなんて思うことも、そりゃああった」

 赤崎は何も言わなかった。緑間は「でも、」と座っている椅子をぐるりと回転させて言った。


「それでも俺は、少なくとも俺だけは、そういうのも全部ひっくるめて、楽しかったんだ。この生徒会執行部が…とんでもなく好きだったんだよ、この俺は」


 だからたとえお前が後悔していると言っても、俺は何も言わないしどうもしない。謝るなんて持っての他だ。それは、自分で自分を否定することになる。それだけは、絶対しちゃあいけない。

(そのことを俺は、お前の死と、環さんに会って知ったから)

「…そっか」

 赤崎が小さく相槌を打つ。穏やかな笑みを浮かべ、首を横に振った。


「安心してよ。僕、後悔はしていないから。初めはそりゃあ、やっぱり戸惑いはしたけどね…でも、僕も同じ。楽しかったから。むしろ感謝しているよ、僕を副会長に推選してくたこと」


 僕のことを気遣ってやってくれたことでもあったんでしょ、と赤崎が続けた。どうやら赤崎には、緑間の魂胆はバレバレであったようだ。

「ありがとう」

「う…や、やめろよ、こっ恥ずかしい」

 緑間はふいっと赤崎から目をそらし、がしがしと明るい色をした自分の髪を掻き回した。わかりやすい照れ隠しである。ここにきて、またも赤崎にペースを握られる緑間であった。

「それで、」

 赤崎が、話を切り替えるように切り出す。


「僕らのあとの生徒会は、“できれば響達に任せたいなー。でも、あいつらのことも無理矢理俺が入れたみたいなもんだからなー。立候補してくれないかもなー”っていうのが、悩み事?」


 得意げな顔で、緑間の真似をする赤崎であった。

「…それは確かにその通りだが、俺の喋り方を真似するのはやめろ」

 とりあえず苛っときたので、先ほどの照れ隠しはどこ吹く風、緑間はぎろりと赤崎を睨んだ。

 まあまあ似ていたと思うんだけどなあと、悪びれる風もなく赤崎が言った。

 まあ、睨んだところで赤崎がそれを気にするわけがないということは、わかりきっていたことである。仕方なく緑間はスルーすることにした。

 そして、そんな緑間の頭の中に居座ったのは“僕らのあとの生徒会は、できれば響達に任せたい”と言った赤崎の言葉である。

 それは、三年生になってからというもの、常々考えていたことだった。そして今、赤崎にその話を振ろうとしていたことも事実である。

 響達―というか、主に響と琴乃は、初めて会った頃と比べると、比べるまでもなく変わった。

 本当に初めの頃は、お互いと優以外の人間を総じて見下していたし、同級生の友人も作ろうとはしていなかったように思う。

 特に響は、どこか心の奥底に闇を抱えていて、緑間達とさえ距離を置いた付き合いをしていたくらいだ。

 そんな彼らが、この二年間で成長し、変わっていった。

 その変化の全てが生徒会のおかげだなどと言うつもりは毛頭ないが、それでもきっかけくらいにはなってくれただろうし、響達には生徒会に携わった一年間を無駄にしないで、残りの学校生活を送ってほしいと緑間は思っている。

 そして出来ることなら、生徒会で一年間を通して得たことや知ったことを、次の世代の人達と共に活かし、この学校をより良いものへと変えていってほしい。


「出来ることなら、そうなればいいって思ってる」

「生徒会長は?やっぱり優?」


 まあ―あの三人の中では、優が一番の常識人でしっかり者で、真面目だ。細かいことに口うるさいところもあるし、色々なことに厳しく、取っ付きにくいと思われがちな部分もあるが―それらを全てひっくるめても、生徒会長とは本来、優のような人間が務めるべきなのだろう。

 学校全体を取り締まり、全校生徒をリードする存在。それが生徒会長だ。そういった面においては優が一番適任だし、普通に考えれば優が一番性に合っている。


「いや…俺は、生徒会長には響を推選したい」


 だが緑間は、適材適所を優先するのではなく、むしろ生徒会長に不向きであろうと思われる響を選んだ。そのことに、赤崎が少しだけ驚いたような顔をする。


「響?あんまり向いていないと思うけど」

「ああ、まあ。俺もそう思うぜ」


 それなのになんで、と赤崎が首を傾げる。緑間は、なんでだろうなと苦笑いをした。

 理由は、ある。

 優ではなく、響を生徒会長に選びたいと思った確固たる理由が、緑間にはきちんとあった。

 それはもちろん贔屓などではないし、むしろ優が生徒会長に向いているとわかっていてこその結論である。

 緑間は、その理由について赤崎に話そうか一瞬考えた。一瞬考えて、どうせ全てお見通しなら、わざわざ言う必要もないだろうと思った。どうせ全て筒抜けなのだから。

 だから敢えて理由は言わず、からかうような軽い口調で―緑間は言った。


「そっちの方が面白れえじゃん?」


 それに対し赤崎は、


「はは…確かに。退屈はしなさそうだ」


 心底おかしそうに笑うのだった。

 それから日が暮れるまで、赤崎と緑間は昔話に花を咲かせた。

 そうして八月五日は、あっという間に過ぎていったのである。

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