12:シルクとお母さん
お久しぶりです。
そして、またしばらく間が空きますが、忘れ去らないで下さい\(^o^)/
その箱の中にあったのは―――
『うわあ!とってもきれいなペンダントですね、おねえさま!』
少女の持つ箱にあったのは、深い蒼色の、竜の形に彫られた、国宝であるペンダントであった。
純粋な喜びの声をあげる彼女とは裏腹に、父親も、兄姉も、そして継母も、緊張した様子でペンダントを見つめていた。
この国の玉座を継ぐ者が、明らかにされようとしている―――
不意に光が差し込んできた。それを遮ろうと腕を動かそうとして、全く動かないことに気づく。いや、動かないこともないが、ずしりとした重りが腕全体に引っ付いているようだ。
そういえば、ここはどこなんだろう?
全身に感覚を巡らせると、ふわふわで暖かい何かに包まれているようだ。お腹の上にも少し重く、熱を放つ何か。
・・・て、え?
ベット?いつの間に?森で倒れていたような気が・・・。
ま、いいや。疲れたし、眠たいし、後一日くらい寝てても大丈夫。うん、きっと大じょ・・・
「おぉっ!起きたかシルヴィ!!大丈夫か?」
・・・熊オヤジぃぃぃ!今ので大丈夫じゃなくなったよコンニャロウ。ぐったりしている私をグラグラ揺さぶって叫ばれても困るんだけどー!
タイミング最悪だし。
私が魂を飛ばしそうになっていると、ミレディさんがやって来た。ミレディさんは私を見ると、血相を変えて助けに来てくれた。どこにそんな力があるのか分からないが、がっしりしたバルドさんを片腕でひっぺがすと玄関まで引き摺っていき、家の外にペイッと投げ捨てた。
「え、ちょ、ま、ミレディお前、シルヴィを心配している俺を閉め出し・・・ギャアァァ」
バタン。
「・・・」
「・・・」
「もう大丈夫よ、シルヴィちゃん。害獣は追い出したからね♪」
・・・『ね♪』って、え?安心でき・・・る?
「ね♪」
あ、はい。トッテモアンシン☆
・・・あれ?お腹の上に白いモフモフがいる。
なんだコレ。
「ミャーン」
それは、真っ白な仔猫だった。
その仔はパッチリと金色の目を開けると、鳴き声をあげて顔に近づき、チロチロと小さな舌で舐め始めた。
・・・か、可愛すぎるっ!この胸から溢れそうな思いをどうすればいいというのだ?いや、どうしようもない(反語)。
あぁ、ダメだ。血圧が上がるっ。鼻血が出ちゃう!乙女としてそれは避けたい!
私は片手で鼻を押さえ、もう片方の手で仔猫ちゃんを持ち上げた。ふう、これでモザイクは防げたぞ!
・・・ん?私、動いてる?動けるの?
「何だかその仔猫、あなたに治癒魔法をかけ続けてたみたいよ」
と、ミレディさん。
うぃ!?この仔が私の体から疲労を消してくれたの!?何でそんなことをしてくれるんだろう?
ただの仔猫にしか見えないのに・・・。
・・・・・・あっ、えっ、もしかして!あの、私が助けた黒猫ちゃん!?
いやいやいや、この仔は真っ白だし、あの黒猫のお友達とか?
うーん、でも体毛以外の見かけとか、金色のおめめとか、あの黒猫ちゃんにそっくりかも・・・?
私が悶々としていると、突然、私の胸元のペンダントが輝きだした。
そして、その光が収束すると、ほんの一瞬だけ、仔猫ちゃんを照らした。
照らされた時間は短かったけど、その間だけ仔猫ちゃんはあの時の黒猫になっていた。
・・・やっぱり、あの黒猫ちゃんなのね。
私がジッと仔猫ちゃんを見つめると、
「ミャオウ・・・」
と気まずそうに目を泳がせていたが、私は顔をデレェと溶かすと、ぎゅーっと仔猫ちゃんを抱き締めた。
「ねぇ、こんな私と一緒にいてくれるの?」
「ミャオーン!」
すぐに返事が帰ってきた。
仔猫ちゃんは一生懸命私のほっぺに頬擦りしている。
「私ってとても幸せ者だわ」
私はそう言うと、仔猫ちゃんの柔らかく、森の香りのする額にキスをした。
「ねえ、家で飼うんだったら、名前をつけてあげたら?」
近づいてきて、ベッドに腰掛けたミレディさんが微笑みながら言った。
私は仔猫ちゃんを頭の上に持ち上げると、ぼんやり考え始めた。
驚いたように見開いた優しい金色と、しなやかな身体を覆う、なめらかな白色。
「・・・シルク」
気つけば、そんなことを言っていた。私の頭にふっと浮かんだその名は、かつて一人ぼっちだった私に心を与えてくれた、優しい老猫のものだった。
最後の最後まで一緒にいた、私が唯一大切だと言える家族。
っと、それは置いといて。
「名前、つけてもいい?」
一応聞いてみる。
耳がピクッと動いた。
「ミャン!」
・・・大丈夫だよね。『ダメ!』とか言ってないよね。うん。
聞いた意味ないわー。
「シルクなんて、とっても素敵な名前じゃない!センス有るわよ、シルヴィアちゃん」
「ミャオーン!」
ミレディさんも仔猫ちゃんも、賛成してくれたみたい。たぶん。
よし。
「シルク!」
「ミー!!」
すぐに返事をしてくれた。
あぁ!でも、何を言ってるのか分からない!
『大好き!!』って言ってるのか、それとも『何やねん!!』なんだか、それとも『お前の胸でかすぎだろ!!』って言ってるのか(すいませんふざけました)。
昔、動物の言ってることを知りたいな・・・と思ったことは何回もあったけど、実際に知ることはほぼ不可能だった。
でも、ここは異世界。私の能力があれば?
私はシルクを胸に抱き抱えると、立ち上がった。
「よし!シルクの言葉が分かるようになる首輪を創ろう!!」
「ミャン!」
Oh!シルクも元気よく返事をしたぞ?
私も元気が出ちゃった。早速創ろ・・・
「シルヴィアちゃん?まさか、このまま活動しようなんて、思ってないわよね?」
ミレディさんが、仁王立ちで目の前に立ち塞がっていた。
「大怪我を治した魔法の跡があるし、シルクちゃんがいなかったら、まだ動けない程の重症だったのよ!・・・体と考え方を直さない内には、何もさせないわよ。言い訳はあるかしら?」
満面の笑みなのに、目が笑ってない。
あの熊に襲われたとき以上の危機を感じた。
ひ、冷や汗が止まらない。
「あ、あのね、あの時は・・・」
「ちゃんと出かける前にお父さんがが貴女に言ったでしょ、『何かあったらすぐ逃げろ』って。妖精ちゃんから事情は聞いたわ。確かに、仔猫ちゃんを見捨てないで助けようとする志はとても立派よ。でも、一歩間違えればどちらも無駄死にするところだったのよ」
一息で喋ったミレディさんは、その後、顔を悲しげに歪めた。
「せっかくできた可愛い娘が、無理をしたせいでいなくなってしまうなんて、そんなの・・・耐えられないわ」
私、ミレディさんにこんな顔をさせちゃう様なことをしてしまったのね・・・。
「ご、ごめんなさい・・・。どうしても、自分が抑えられなかったの。考えが甘かったわ。もう、お母さんを悲しませないから」
目に限界まで溜まった涙が、こぼれ落ちた。
「いいのよ。貴女には、私には無い勇気があり、力があり、優しさがあるのだから!もう、大丈夫・・・」
そう言って、ミレディさんは私を優しく抱き締めてくれた。
私は、ミレディさんの腕の中で泣き止みながら、次第に力を抜き、眠りに落ちた。
眠る寸前に、ミレディさんが私の額にキスをし、シルクが私の側に寄り添ったのを感じて、ずっと昔の哀しみが薄れた気がした。
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『お母さん・・・』
ミレディはシルヴィアが寝言でそう言ったのを聞いた。
不安になってその顔を見ると、苦悶するような顔ではなく、安心した、優しげな表情であった。
ミレディは微笑んだ。そして、寂しげな顔をした。
「どうか、何も思い出さずにいてちょうだい。ずっと、ずっと私の娘でいて・・・」
そう言うと、彼女は夕飯の支度をしにいった。
その言葉は祝福となり魔女の呪いを解き、
また呪いとなって本物のシルヴィアを閉じ込めた。
それが吉と出るか凶と出るかは、誰も知らない。




