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魔剣姫と狂愛の魔女   作者: 澪木 たま
居候編
12/15

11:代償に得たものは・・・

(シャドウ)(パンサー)


その名の通り、闇夜の中での狩りが得意な魔物だ。

魔物には順にE・D・C・B・B+・A・A+・S・S+の9段階ある。影豹はA+の実力を持つ。

通常の身体能力はB+ほどだが、夜はその危険性がずっと増す。

真っ黒な体毛は闇に紛れ、更に豹特有の身体能力で呼吸音すら悟らせずに接近し、獲物を仕留める。

そして、最も特徴的で危険なのが『影踏み』である。

『影踏み』とは、簡単に言うと、相手の影に攻撃ができるということだ。

例えば、相手の影に噛みつけば、影が噛みつかれた所と同じ本体の部分が噛みつかれたようになる。

つまり、自分の影ができる場所で影豹に出会うと、自分の影の動きを計算して動けるか、『影踏み』用の守護魔法がなければ、死ぬ確率が大幅に上がるのである。

彼らはとても目がいいので、どんなに薄い影でも見逃さない。


だから、彼らは別名『影で死を導く者』とも呼ばれている。


その子供・・・しかも、産まれて数ヵ月の幼子が親も無しにシルヴィア殿の側にいるのはなぜだ?


我が顔を近づけると、いっそう体を震わせて怯えたが、決意の光を宿した瞳を向けて、話しかけてきた。


『あ・・・貴方は、この人間の味方ですね?』


『うむ、勿論だとも』


『・・・僕に、力を下さい』


『む?』


『僕に、大切な者を守れる力を下さい。もう、誰も傷つけさせないように』


闇の中の星のように、強く輝く黄金の瞳が、我を見上げてきた。


・・・なんてしっかりとした良い子なのだ!

我は不覚にもウルッときてしまった。いや、これは目から出た汗なのだ。そうなのだ。


我は感嘆のため息を呑み込むと、静かに幼子を見つめた。


ここからは、流石に感情にまかせて勝手なことはできぬ。


『・・・我の性質に近い力なら、どんな力でもを渡すことはできる。が』


我は目を細めて、口の隙間から炎をチラチラと出した。


『その力と同等の代償を我に支払わなければならない』


『それは、例えばどんなものですか?』


幼子は、少し怖じ気ずいたようだが、すぐに頭をふって質問をしてきた。


『そうだな。単純に、我と同じ筋力が欲しいと言うのであれば、それと同じ価値のあるものなら何でもよい。一般的なものは、寿命や若さ、美しさだな』


幼子は体を震わせた。


『あとは、声が美しい者からは声を、視力の高い者からは目を貰ったりもする。代償は、他の者から貰ったものを差し出すことはできない。契約者本人のものしか受け取れない』


我は首を曲げ、幼子と目線を合わせた。


『それでも、そなたは力を望むか?』


『それでも、僕は、力を望みます。もう、誰にも迷惑をかけたくないから。・・・大切なものを守りたいから』


幼子の目に、迷いは無かった。


『うむ、それならば問題ない。そなたは、何の力が欲しいのだ?』


『癒しの力が欲しいです。それも、怪我だけでなく、毒や精神異常、呪いも癒せる力が』


『ふむ・・・勿論、効果も最大のものを望むだろうからな。対価は・・・』


一瞬の沈黙。


『そなたの《黒色》だ』


驚きに目を見開く幼子。


『たったそれだけなんですか?』


我はニヤリと笑うと幼子の額に爪の先を当てた。


『勘違いしているようだか、そなたの《黒色》にはかなりの価値がある。黒色を失ったそなたは影豹(シャドウ・パンサー)ではなくなる。故に子孫を残すことはできなくなる。さらに、《黒色》をなくした影豹(シャドウ・パンサー)は、決して闇に紛れることのない呪いが身体にかけられる。まあ、それではお釣が出るから、《影踏み》や身体能力だけは残しておこう』


我はそう言うと、爪の先から幼子へ魔力を流し、それで幼子の身体の作りを変えていった。


幼子の額から、徐々に灰色、白色に変わっていき、10秒も経つころには、真っ白な仔猫ができていた。


幼子は、目をパチクリさせながら身体中を眺めて、動かしていた。


我は近くの裂けた丸太を持ち上げ、幼子の前へ下ろした。


『この丸太を元の生きた木に戻してみよ』


・・・・・・。


『・・・どうやるんですか?』


そういえば教えるの忘れてたぞぉぉぉぉ!


『まずは身体に流れている魔力が一番流れやすい部位を対象に触れるのだ』


幼子は動きを止めて、ゆっくり深呼吸をし始めた。

幼子の身体から漏れ出た魔力がゆっくりと回りだし、それが前肢へ移動した。

その足を丸太の上にのせたのを見ながら、我は驚いていた。

あっという間に魔力の流れを感じたかと思うと、完璧に操ったのだ。無理強いをしたつもりだったから、ここまでできるとは正直思ってもみなかった。

もしや、稀に発生する《規格外》なのか?


我はそれを確認するためにも、少し難しい方の治癒魔法を教えてみることにした。


『そなたは、生き物が何でできているか知っているか?』


暫く考えてみたようだが、首をふる幼子。


『生き物はな、簡単にいうと、目に見えないほど小さな《細胞》という生きている箱の様なものが固まってできたものなのだ』


幼子の周りにハテナマークが沢山浮かんでいる。

我は解りやすいように、尻尾で地面に細胞の絵を描いた。


『この《細胞》が集まると、特定の性質を持つ《組織》になり、さらにそれが集まると、特定の働きをする《器官》ができる。《器官》に中るのは、胃や肺、目、筋肉、血管などだ』


ここまで来ると、徐々に解ってきたのか尻尾をふり始めた。


『そして、傷がつくというのは、この《細胞》が破れたり潰れたりすることなのだ。つまり』


今度こそ理解したのか、目をキラリと輝かせた。


『本来の治癒魔法というのは、この《細胞》に魔力を与え、活性化させることで《細胞》自身の治癒力を高めることなのだ。毒の場合は、これを分解して無害にする事のできる《器官》を活性化させ、それを少し冷やしながら毒をそこに集めるイメージだ。呪いの場合は、恐らく黒い糸のようなものが身体に巻き付き、呪われている部分と繋がっているから、そこを治癒力を高めた爪で引きちぎるとよい。後は勝手に呪いが反っていくからな。《人を呪わば穴二つ》だ』


幼子は、じいっと木を見つめ始めた。


『木の場合は、その中身の構成を創り治す感じだ』


幼子は目を閉じると、丸太の傷ついている部分に魔力を流し込んだ。

キラキラ光る魔力は徐々に密度が高くなり、うねりだした。そして、とても細い糸になると、丸太の傷口に入っていき、全ての細胞に魔力を流し込んだ。

その瞬間、丸太全体が光を帯び、傷は瞬く間に塞がった。

さらに、根っこがのびると地面にささり、ゴゴゴと音をたてて元の場所に倒される前と同じ様子で立った。


いや、同じではなかった。


突然、全体を覆っていた光が中央に集まると、金色の宝石の様なものになって固まり、フワフワと浮き始めた。

次の瞬間、それは木の中に吸い込まれるように潜り(・・)、そして木にはまる形で表に出てきた。

そして、木の枝が勝手に伸びたり縮んだりして動き始めた。


『『・・・・・・』』


どう見ても魔物化しておる・・・。


『治癒したつもりなんですが・・・』


助けてもらったのが分かったらしい木に、まとわりつかれて苦戦しながら、幼子が口を開いた。


『そうだな・・・魔力の入れすぎかもしれん』


我はそう言いながら、木に持ち上げられて、ナデナデされている幼子を見つめた(生暖かく)。


『そういえば、本来のものではない治癒魔法とは何ですか?』


ナデナデされてヘロヘロになりながらも、鋭い質問をしてきた。

うむ、将来は有望な子だな。


『普通、人間などの治癒魔法を使用する者達は、自分達の体の仕組みを知りもしないし、ましてや怪我が治る仕組みなど知るはずもない。では、彼らはどの様に治癒魔法を使っているのか?』


『・・・《再生(リバース)》。つまり、戻す?』


『そうだ。彼らは、元の状態に戻そうとする(・・・・・・)のだ。つまり、彼らは治癒魔法を使っている様で、実は時魔法を使用しているのだ。だから、彼らが言うところの治癒魔法を使える者は0.001%程しか居らぬし、その効果に対する消費魔力も多いから、余程の事がない限り使えない幻の魔法となっているのだ』


『僕が教えてもらったものは、使いやすいし、魔力消費も少ないんですね』


そうだそうだ、と頷きながら、我はシルヴィア殿に目を向けた。

彼女の周囲の草木から小さな顔が沢山覗いている。

妖精達が知らせるだろうから、我がシルヴィア殿の保護者を呼ばなくてもよいようだな。

あまり長居しすぎても、良くないだろう。

そろそろ行かねば。


『我はもう、棲みかに戻らねばならぬ。幼子よ、達者でな!』


ようやく、木を宥めて地面に足を着けた幼子は、我に向かって元気よく返事をした。


『ありがとうございました!』


我はそれを聞き届けると、翼を広げ、大地を蹴った。

願わくば、彼らに幸多からんことを。


活動報告にも書きましたが、

更新は不定期になりました。


しかし、これからもチビチビとやってくつもりなので、よろしくお願いいたします。



・・・仔猫可愛い(^q^)

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