表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

番外編 きらきらしたそれらの浮つき気味な執着

 きらきらしております!

 きらきらしています!

 きららきららと輝いておりますの!

 きららきららと瞬いておりますの!

 美しいです!

 麗しいです!

 私達!


 せ い れ い と、申しますのです事なのだわ~!!!


 語尾ハートマーク満載な頭が確実に悪いであろう声音は、此の世界に満ち満ちる不可視の存在の主張。

 稀有なる目を持つ存在にしか其の姿は捉える事が出来ず、噂に因れば其の姿は絶えぬ光に包まれていると云う。王家を筆頭とした貴種の血筋に対し無条件の加護を与え、此の国の安寧に一役買ってきていた其の存在は、怨恨を糧とする此れ又力有る不可視の存在"悪霊"とは対極と云われていた。

 要するに、善き存在(もの)とのカテゴライズをされている訳だ。

 王族や貴種を助けている。

 悪霊を退ける力を持つ。

 絶えず光に包まれている。

 だから。

 精霊は善き存在(もの)なのだと。



 ――――――……え? ホントウニ???



 あれあれあれあれ!

 異物だよ! ダメナモノだよ!

 馴染まないよ!

 きらきらと粒子を撒きながら、其れ等は口々にさんざめく。

 生まれたの!

 生まれたよ!

 オモシロイ生き物の流れだ!

 アサマシイ生き物の流れに!

 きらきらきら。

 きらきらきら。

 良いなあ! 叫んでる!

 好いなあ! 喚いてる!

 其れ等が注目しているのは、生まれたばかりの女の赤子。

 食べたいな!

 食みたいな!

 きらきらきら。

 きらきらきら。

 其れ等がそうっと赤子の周りに集まる。

 其れ等がずうっと赤子の周りに群がる。

 赤子は泣いていた。

 其の言葉は、思念でしかないが。

『嘘! 悪役!? え!? あの莫迦令嬢が私!? いやあああああああああああ!!!!!』

 自分が何者であるのか。

 己が何者であるのか。

 把握して泣き喚く赤子は、其れ等の眼には酷く酷く眩しく見えた。

 きらきらきらと。

 きらきらきらと。

 輝いていると云う己が身より、其れは酷く酷く眩しかったのだ。

 オモシロイネ?

 其れ等が云う。

 面白いネ!

 其れ等が笑う。

 ねえねえ、泣いてる君!

 ねえねえ、抗う君!

 さんざめきさんざめき。

 きらきらと耀うて。

 寄り始めた女達の姿を押しのけて追いやって時折負けて。

 其れ等は騒ぐ赤子の傍に行く。

 手伝ってあげようか?!

 問いは決定。

 助けてあげようね!

 断定は断行。

 赤子が、きょとんと見上げる。

 周囲のあれやこれやを、周囲の有象無象を。

 きらきら輝く其れ等。

 黒々渦巻く女達。

 だが其の双方を平然と見つめ、驚愕に瞠目し。

 赤子は小さな手で己の目を擦った。


 さあさあ、何がして欲しいの!

 ねえねえ、何をしてあげようか!


 きらきらきらと。

 きらきらきらと。

 感情(いろ)の無い声音で詰め寄られ、意思(ねつ)の無い響きで追い上げられ。

 赤子は其れでも、前を向いた。

 己の身の安全確保。

 此れから起こるだろう愚考への牽制。

 死にたいと願いながら死ねない女達の気持ちの救い上げ。

 己を研鑽する為の段取り。

 囲った存在(もの)が健やかに生きて行く為の環境。

 赤子の願うものは余りにも予想外で。

 思念が平淡になり思考に振幅を無くしかけていた其れ等は、非常に愉しみ、非常に慈しんだ。

「何故、父母(はくしゃくけ)を庇護するの?」

 こんなに酷い人達なのに。

 忙しい日々が一年を少しばかり過ぎた頃。

 赤子であった幼子が緑に囲まれ其れ等に問うた。

 幼子の倫理観は、自分の生家の行動が如何にも許せるものでは無かった様子で、時折唇を噛んで静かに悔しがる姿を見ていた悪霊(メイド)達は、そっとその小さな頭を撫で手を取り言葉なく慰める。

 だが、しかし。

 何がー?

 何をー?

 当の其れ等はきらきらと眩しい光をまき散らしながら、心底不思議そうにそう返す。

 人と感覚が違うのかしら。

 幼子は其の反応に詳細を聞く事を諦める。無駄な事は、しない主義だった。

 オモシロイ生き物の流れは珍しい色だからね~!

 アサマシイ生き物の流れは滅びやすいからね~!

 さんざめきさんざめき。

 幼子に告げる姿に深みは無かった。

「知っていたけど……」

 幼子は、己を囲うメイド達に僅かに縋りながら、目の前のきらきらから僅かに身を引く。

 根っこの無い興味だけの行動…………其れは、とても怖い。

 幼子は正確に把握しながらも、だがしかしと姿勢を正す。

 これ等は、幼子にとって、貴重極まりない……強大なツテ、なのだ。

 多分に、精霊の干渉は成長と共に薄れるのだろう。

 幼子はそう判断していた。

 文献でも、そんなに濃い絆を維持し続けた存在はいない。

 だが。

 おもしろいねえおもしろいねえ! 君は!

 こぎみよいねえこぎみよいねえ! 君は!

 其れなりの年月共にいると云うのに、其の輝きに一向に陰りを見せない其れ等の姿に、考えを改めた方がよいのではないかとメイド達が考えている事等、幼子が知る筈も無く。

「エアテ、です」

 そして。

 なになに?

 どれどれ?

 さんざめきさんざめき。

 きらきらきらと。

 きらきらと。

 集う其れ等に幼子が拗ねた様に見せ……恥かしそうに、告げる。

「私、エアテ、と云う名前なのです。君じゃありません。エアテ、です」

 えあて

 其の、一語。

 ぶわりと其れ等の(なか)から何かが溢れた等、幼子は気が付かない。

 えあて

 えあて

 えあて

 えあて

 違うよ、発音が違う。

 えあテ

 エあて

 えアて

 エアて

 エあテ

 違うよ、違うよ。

 きらきらときらきらと。

 きららきらときららと。

 さんざめいてさんざめいて。

 其れ等が己の名前を練習する意味を、幼子は知らない。

「人の言葉は、発音しにくいのかしら?」

 隣に立つ一番力有る悪霊(メイド)を見上げ、邪気無く問う幼子へ、彼女は些か呆れた様に吐息して然様ですねと呟く様に返した。



 きらきらしております!

 きらきらしています!

 きららきららと輝いておりますの!

 きららきららと瞬いておりますの!

 美しいです!

 麗しいです!

 私達!


 せ い れ い と、申しますのです事なのだわ~!!!


 此の世界に満ち満ちる不可視の存在が語尾ハートマーク満載な頭が確実に悪いであろう喋り方で燥いでいる。

 感情も

 赤子が幼子になり、幼子が少女になり。

 乙女となった其の後も、精霊は彼女の味方であった。――――――未来永劫、味方となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あ〜ぁ 契約しちゃったねえ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ