番外編 きらきらしたそれらの浮つき気味な執着
きらきらしております!
きらきらしています!
きららきららと輝いておりますの!
きららきららと瞬いておりますの!
美しいです!
麗しいです!
私達!
せ い れ い と、申しますのです事なのだわ~!!!
語尾ハートマーク満載な頭が確実に悪いであろう声音は、此の世界に満ち満ちる不可視の存在の主張。
稀有なる目を持つ存在にしか其の姿は捉える事が出来ず、噂に因れば其の姿は絶えぬ光に包まれていると云う。王家を筆頭とした貴種の血筋に対し無条件の加護を与え、此の国の安寧に一役買ってきていた其の存在は、怨恨を糧とする此れ又力有る不可視の存在"悪霊"とは対極と云われていた。
要するに、善き存在とのカテゴライズをされている訳だ。
王族や貴種を助けている。
悪霊を退ける力を持つ。
絶えず光に包まれている。
だから。
精霊は善き存在なのだと。
――――――……え? ホントウニ???
あれあれあれあれ!
異物だよ! ダメナモノだよ!
馴染まないよ!
きらきらと粒子を撒きながら、其れ等は口々にさんざめく。
生まれたの!
生まれたよ!
オモシロイ生き物の流れだ!
アサマシイ生き物の流れに!
きらきらきら。
きらきらきら。
良いなあ! 叫んでる!
好いなあ! 喚いてる!
其れ等が注目しているのは、生まれたばかりの女の赤子。
食べたいな!
食みたいな!
きらきらきら。
きらきらきら。
其れ等がそうっと赤子の周りに集まる。
其れ等がずうっと赤子の周りに群がる。
赤子は泣いていた。
其の言葉は、思念でしかないが。
『嘘! 悪役!? え!? あの莫迦令嬢が私!? いやあああああああああああ!!!!!』
自分が何者であるのか。
己が何者であるのか。
把握して泣き喚く赤子は、其れ等の眼には酷く酷く眩しく見えた。
きらきらきらと。
きらきらきらと。
輝いていると云う己が身より、其れは酷く酷く眩しかったのだ。
オモシロイネ?
其れ等が云う。
面白いネ!
其れ等が笑う。
ねえねえ、泣いてる君!
ねえねえ、抗う君!
さんざめきさんざめき。
きらきらと耀うて。
寄り始めた女達の姿を押しのけて追いやって時折負けて。
其れ等は騒ぐ赤子の傍に行く。
手伝ってあげようか?!
問いは決定。
助けてあげようね!
断定は断行。
赤子が、きょとんと見上げる。
周囲のあれやこれやを、周囲の有象無象を。
きらきら輝く其れ等。
黒々渦巻く女達。
だが其の双方を平然と見つめ、驚愕に瞠目し。
赤子は小さな手で己の目を擦った。
さあさあ、何がして欲しいの!
ねえねえ、何をしてあげようか!
きらきらきらと。
きらきらきらと。
感情の無い声音で詰め寄られ、意思の無い響きで追い上げられ。
赤子は其れでも、前を向いた。
己の身の安全確保。
此れから起こるだろう愚考への牽制。
死にたいと願いながら死ねない女達の気持ちの救い上げ。
己を研鑽する為の段取り。
囲った存在が健やかに生きて行く為の環境。
赤子の願うものは余りにも予想外で。
思念が平淡になり思考に振幅を無くしかけていた其れ等は、非常に愉しみ、非常に慈しんだ。
「何故、父母を庇護するの?」
こんなに酷い人達なのに。
忙しい日々が一年を少しばかり過ぎた頃。
赤子であった幼子が緑に囲まれ其れ等に問うた。
幼子の倫理観は、自分の生家の行動が如何にも許せるものでは無かった様子で、時折唇を噛んで静かに悔しがる姿を見ていた悪霊達は、そっとその小さな頭を撫で手を取り言葉なく慰める。
だが、しかし。
何がー?
何をー?
当の其れ等はきらきらと眩しい光をまき散らしながら、心底不思議そうにそう返す。
人と感覚が違うのかしら。
幼子は其の反応に詳細を聞く事を諦める。無駄な事は、しない主義だった。
オモシロイ生き物の流れは珍しい色だからね~!
アサマシイ生き物の流れは滅びやすいからね~!
さんざめきさんざめき。
幼子に告げる姿に深みは無かった。
「知っていたけど……」
幼子は、己を囲うメイド達に僅かに縋りながら、目の前のきらきらから僅かに身を引く。
根っこの無い興味だけの行動…………其れは、とても怖い。
幼子は正確に把握しながらも、だがしかしと姿勢を正す。
これ等は、幼子にとって、貴重極まりない……強大なツテ、なのだ。
多分に、精霊の干渉は成長と共に薄れるのだろう。
幼子はそう判断していた。
文献でも、そんなに濃い絆を維持し続けた存在はいない。
だが。
おもしろいねえおもしろいねえ! 君は!
こぎみよいねえこぎみよいねえ! 君は!
其れなりの年月共にいると云うのに、其の輝きに一向に陰りを見せない其れ等の姿に、考えを改めた方がよいのではないかとメイド達が考えている事等、幼子が知る筈も無く。
「エアテ、です」
そして。
なになに?
どれどれ?
さんざめきさんざめき。
きらきらきらと。
きらきらと。
集う其れ等に幼子が拗ねた様に見せ……恥かしそうに、告げる。
「私、エアテ、と云う名前なのです。君じゃありません。エアテ、です」
えあて
其の、一語。
ぶわりと其れ等の内から何かが溢れた等、幼子は気が付かない。
えあて
えあて
えあて
えあて
違うよ、発音が違う。
えあテ
エあて
えアて
エアて
エあテ
違うよ、違うよ。
きらきらときらきらと。
きららきらときららと。
さんざめいてさんざめいて。
其れ等が己の名前を練習する意味を、幼子は知らない。
「人の言葉は、発音しにくいのかしら?」
隣に立つ一番力有る悪霊を見上げ、邪気無く問う幼子へ、彼女は些か呆れた様に吐息して然様ですねと呟く様に返した。
きらきらしております!
きらきらしています!
きららきららと輝いておりますの!
きららきららと瞬いておりますの!
美しいです!
麗しいです!
私達!
せ い れ い と、申しますのです事なのだわ~!!!
此の世界に満ち満ちる不可視の存在が語尾ハートマーク満載な頭が確実に悪いであろう喋り方で燥いでいる。
感情も
赤子が幼子になり、幼子が少女になり。
乙女となった其の後も、精霊は彼女の味方であった。――――――未来永劫、味方となった。




