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角を狩るモノ  作者: Samail
九章 角を狩るモノ

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九十話 終の場所

遠野。


麓の村。


朝日が山を照らし始める。


「兵介さん!」


家の戸が勢いよく開いた。


「早く起きて!」


布団に潜り込んだ兵介は顔だけ出す。


「……もうちょっと寝かせてくれよ、フミ。」


「駄目です。」


腕を組んだフミは呆れたようにため息を吐く。


「畑、放っておくの?」


「逃げねぇって……。」


「嫁は逃げるかも。」


「それは困る!!」


兵介は飛び上がる。


「鬼相手より畑の方がきついな。」


フミは吹き出した。


「何言ってんの。ほんとに。」


「はー!がんばりますかね。」


兵介は肩をすくめる。


外へ出る。

澄んだ空気。

遠くには早池峰。

兵介は空を見上げた。


「畑終わったら会いに行くかな。」


フミは微笑む。


「ソウさんのところ?」


兵介も笑った。


「ああ。」



畑。


白狐とムジナが言い争っている。


「だから焼き魚が一番うまいんだって!」


「馬鹿いってんじゃねぇ!」


ムジナが胸を張る。


「団子だろ!」


「魚だ!」


「団子!」


「魚!」


その後ろを子どもたちが笑いながら追い掛ける。


「待てー!」


「ムジナー!」


「お狐さーん!」


二匹は慌てて逃げ回る。


畑いっぱいに笑い声が響いた。

戦いを知らない子どもたち。

その笑顔を見て。

兵介は小さく笑う。


「……悪くねぇな。」



上代家。


社。


社殿の中央。

赤い石が静かに祀られていた。

血を凝縮したような色。

今は何も語らない。

アキが石を見つめる。


「この石は。」


「新たな禍になりかねません。」


「お役目は終わっていません。」


「鎮め続けなければ。」


ミコトは静かに頷く。


「うん。せっかくソウが角を壊してくれたのにね。」


隣でソウが苦笑した。


「ごめんね。もう彼岸の力、使えなくなっちゃって。」


もう鬼に堕ちることはない。

ミコトは首を横へ振る。


「いいの。そんな力。」


「ない方がいい。」


ソウは少しだけ笑った。

その時。


「おーい。」


ひょこっとムジナが顔を出す。


「難しい顔してんな。」


石を見上げる。


「まぁ。一回起きたんだし、また五百年くらい眠らせりゃ。そのうち弱るだろ。」


アキは苦笑する。


「そうだといいですね。」


ミコトも笑う。


「うん。そうだといいね。」


社を風が吹き抜けた。

鈴が静かに鳴る。



夕暮れ。


上代家。


縁側。

ソウとミコトが並んで座る。


中庭では。

わらしと河太郎が鬼ごっこをしていた。


「追いかけないでねぇ!」


「……いや。」


怪異たちの笑い声が響く。

それを眺めながら。

ソウは穏やかに目を細める。

ミコトがそっと隣を見る。


「ソウ。」


「ん?」


「幸せ?」


遠野へ来た日。


鬼。


旅。


仲間。


別れ。


そして今。


ソウは静かに頷いた。


「うん。」


ミコトも微笑む。


二人の手が重なる。

優しい温もりだった。


夕日が二人を照らす。

遠くで子どもたちが笑う。


鳶は鳴いて、巣に帰った。

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