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角を狩るモノ  作者: Samail
九章 角を狩るモノ

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八十九話 軌跡

讃岐。


山奥。

鳥の囀りだけが響く朝。


「おーい、九条ー!」


畑の向こうから大きな声が飛んできた。

九条家当主は眉間に皺を寄せる。


「せめて様を付けろ!」


「いや、もう親戚じゃん。」


笑いながら近付いてきた男は肩を竦めた。


「お前の娘と俺の息子が結婚したんだし。」


「そういうことではない!」


九条は杖で地面を叩く。


「家格というものがあるだろう!良司!」


「はいはい。」


静かな山奥は。

少しだけ変わっていた。



兵庫。


播磨屋。


「新吉!」


店の奥から伊兵衛の声が飛ぶ。


「客だ!」


「はーい!」


元気よく飛び出してきた新吉は、玄関に立つ僧を見て笑う。


「なんだ、弥助坊さんか。」


「おいおい。」


弥助は苦笑した。


「一応客だぜ?俺ぁ。」


「はいはい。」


新吉は笑いながら首を傾げる。


「それで?どうしたの?」


弥助は腕を組み、大げさに咳払いをする。


「角狩りの話だ。」


新吉の目が一気に輝いた。


「お兄ちゃんの!?なになに!?」


弥助は思わず吹き出した。


「落ち着けって。」


店の奥から怒鳴り声が飛ぶ。


「新吉!うるせぇぞ!!」


「ご、ごめん!」


新吉は慌てて頭を下げる。

それでも顔は嬉しそうだった。


「早く聞かせてよ!」


弥助は苦笑しながら座り込む。


「長くなるぞ。」


「いいよ!何日でも聞く!」


兵庫の町には。

今日も子どもたちの笑い声が響いていた。



堺。


鳴海屋。


「これはこれは。」


番頭が深く頭を下げる。


「源蔵さん。瀬良さん。どうされましたか。」


源蔵は静かに笑う。


「旦那はいるか。」


「おります。」


ほどなくして鳴海屋の主人徳兵衛が姿を現す。


「お待たせしました。今日はどのようなご用件で?」


源蔵が鼻で笑う。


「あんたも聞きてぇだろ。角狩りの話さ。」


主人は目を丸くした。

瀬良が遠い目をする。


「ああ。遠野は、地獄だった。」


その一言だけで。

部屋の空気が変わる。

主人は息を呑む。


「ぜひ、お聞かせ願えませんか。」


瀬良は酒を一口飲む。


「何でもな。」


「あいつ。ミコトの嬢ちゃんと夫婦になったらしいぜ。」


主人の顔がぱっと明るくなる。


「それは!めでたい話ではありませんか!」


源蔵も小さく笑った。


「ああ。本当に。めでたい。」


誰もが笑った。

血に染まった戦いを知る者だからこそ。

その結末を。

心から祝福できた。



讃岐で。

兵庫で。

堺で。


ソウを知り、ソウと出会った人物たち。


今生の別れなのか、再び相まみえるのかはだれも知らない。

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