八十八話 角を狩るもの
鬼が咆哮する。
拳が振り下ろされる。
ソウは天穿を構えた。
「喰え。」
静かな声だった。
「天穿。」
その瞬間。
刀身が微かに震えた。
黄色い光を纏う。
光がまるで呼ばれるように。
天穿へ集まり始める。
光は止まらない。
黄色い光が次々と刀へ吸い込まれていく。
刀身が黄金色へ染まる。
鬼が目を細めた。
「……なんだ、それは。」
ソウは答えない。
「喰え。」
さらに光が集まる。
まるで。
ソウの彼岸の力をすべて食い尽くすように。
天穿が鳴いた。
鬼が地を蹴る。
「そんなものォ!!」
拳。
轟音。
ソウは天穿で受ける。
激突。
衝撃で地面が砕けた。
踏み止まる。
そのまま身体を捻る。
返す刀。
斬撃が赤い腕を裂いた。
鮮血。
鬼が初めて顔を歪める。
「……なに。」
傷口から黒い煙が漏れる。
ソウは構え直した。
「喰え。」
刀はなおも光を求めた。
黄色い光が空を埋める。
まるで無数の蛍。
その全てが。
天穿へ吸い込まれる。
刀身が悲鳴を上げる。
耐え切れないほどの力。
鬼が吠えた。
「消えろォォォォ!!」
拳。
拳。
拳。
乱打。
一撃で木々が倒れ。
二撃目で岩が砕け。
三撃目で山肌が裂ける。
ソウは受ける。
流す。
躱す。
それでも。
一撃が腹へ入る。
「がっ……!」
身体が宙を舞う。
岩へ叩き付けられる。
血が口から零れた。
鬼が嗤う。
「それが。」
「人の強さか。」
ソウは立ち上がる。
膝が震える。
それでも。
天穿だけは離さない。
鬼が最後の一歩を踏み出した。
拳が振り上がる。
「終わりだ。」
その時だった。
「還れ!!」
ミコトの声。
破邪の血が輝く。
白い光が鬼を包む。
赤い身体が軋む。
鬼の動きが止まった。
ほんの一瞬。
だが。
十分だった。
ソウは息を吸う。
刀身が、天を穿つ。
「さようなら。」
何へ向けた言葉か。
自分でも分からなかった。
踏み込む。
黄金の刃が空を裂く。
唐竹。
振り下ろす。
鬼が咆哮する。
――ぱきん。
乾いた音。
角が砕けた。
五百年を砕いた。
赤い身体が光へ変わる。
腕が消える。
脚が消える。
胴が崩れる。
鬼は最後までソウを見ていた。
そして。
落涙。
その身体は夜空へ溶けていった。
静寂。
地面には。
小さな赤い石だけが残っていた。
まるで。
凝縮された血のように赤い石が。




