八十六話 嗤う鬼
最後の一体。
兵介の刀が鬼の首を斬り飛ばした。
黄色い光。
形代が黒ずむ。
真っ黒になったそれは音もなく崩れ去った。
静寂。
兵介はその場へ膝をつく。
「……終わった。」
肩で息をする。
腕が重い。
足も笑っていた。
瀬良が刀を払う。
「生きてるか。」
「なんとか。」
兵介は苦笑した。
その瞬間。
――グオオオオオオオオオオオッ!!
山が震えた。
空気が揺れる。
木々の葉が一斉に震える。
兵介の笑みが消えた。
「……なんだ。」
今まで感じたことのない圧。
堺で戦った王角。
あの鬼ですら比較にならない。
背筋が凍る。
瀬良も息を呑む。
「……角狩り。」
「行くぞ。」
兵介は立ち上がろうとする。
足に力が入らない。
膝から崩れ落ちる。
「くそっ……。」
瀬良はため息をつく。
「ったく。」
兵介の腕を肩へ回す。
「一人で歩ける。」
「無理だろ。」
「ぐぅ。」
肩を組み。
ゆっくり歩き出す。
一歩。
また一歩。
呼吸だけが響く。
森を抜ける。
開けた場所へ出た。
そして。
二人は止まる。
「……。」
兵介は言葉を失った。
赤い。
全身が血のように赤い鬼。
額には。
三本の角。
黒煙が身体から立ち上る。
ただ立っているだけ。
それだけなのに。
空気が重い。
息が苦しい。
瀬良の手が震える。
「……あれは。」
兵介も刀を握る。
だが。
身体が動かない。
瀬良が呟いた。
「無理だ。」
その声には。
恐怖があった。
赤鬼の前。
天穿を握る男が一人。
ソウは静かに立っていた。
鬼もまた。
ゆっくりとソウを見る。
赤い瞳が開く。
「……。」
沈黙。
次の瞬間。
鬼が。
嗤った。




