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角を狩るモノ  作者: Samail
九章 角を狩るモノ

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八十五話 降臨

ソウと現再が向かい合う。


現再が細い刀を構える。


「最後に問おう。」


「御劔を御身へ返す気はないか。」


ソウは天穿を握り直す。


「ない。」


「そうか。」


現再は静かに頷いた。


「ならば。」


踏み込む。

細い刀が月光を裂いた。


速い。

だが。

ソウは動じない。


一合。

二合。

三合。

火花が散る。


四合目。


ソウは一歩踏み込んだ。


「終わりだ。」


天穿が振り抜かれる。


鮮血。

現再の右腕が宙を舞った。

刀が乾いた音を立てて転がる。


現再は膝をつく。

それでも笑っていた。


「御身……。」


その目はソウではない。

祭壇だけを見ていた。


「ムジナ!」


「おう!」


ムジナ縄を噛み切る。

爪で断ち切る。

縄が音を立てて地面へ落ちた。


「ミコト!」


ソウが駆け寄る。

ミコトはふらつきながらも笑った。


「ありがとう、ソウ。」


「……信じてた。」


ソウは静かに頷く。


「ごめんね。遅くなった。」


ミコトは首を横へ振る。


「ううん。」


しかし、その表情が曇る。

祭壇へ目を向けた。


「でも……。」


「このままだと禍が。」


ソウも振り返る。

現再の姿がない。


「……!」


山道の奥。

左腕で黒い角を抱えながら現再が走っていた。

血を流しながら。


「御身さえ……。」


息を切らす。


「御身さえあれば……。」


足元へ血が滴る。


ぽたり。

ぽたり。

その血が。

黒い角へ落ちた。


――どくん。


現再が立ち止まる。


「……?」


角が脈打った。

まるで心臓のように。


どくん。


どくん。


黒い角が脈動を始める。

現再の瞳が揺れた。


「御身……?」


黒い角が蠢く。


ゆっくり。

ゆっくりと。

斬り落とされた右腕へ伸びていく。


「……っ。」


黒い棘が肉へ食い込む。


肩へ。


胸へ。


首へ。


生き物のように這い上がる。


「違う……。」


現再の笑みが消えた。


「駄目です。」


侵食は止まらない。

腕が黒く染まる。

骨が軋む。

肉が膨れ上がる。


「駄目です!」


現再は叫んだ。


「私は御身をお迎えする者!」


「受肉する器ではありません!」


黒い腕がさらに肥大する。

鋭い爪。

黒い鱗。

禍々しい角。

現再は全てを理解する。


「違う……。」


「違います……。」


「私ではありません!」


頭の奥から。

低い声が響く。


――五百年。


――長かった。


現再は震えた。


「あ……。」


黒い棘が胸を貫く。


「あああああああああぁぁぁぁぁ!!」


山中へ絶叫が響いた。

ソウとミコトは顔を上げる。

ムジナが毛を逆立てた。


「ソウ……。」


「来るぞ。」


夜の山が。

震えた。

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