八十四話 相対
山の中腹。
開けた場所。
ソウは足を止めた。
祭壇。
禍々しい角。
その前に。
縄で縛られた少女。
「ミコト!」
少女が顔を上げる。
一瞬。
笑った。
「ソウ!」
その一言だけで十分だった。
ソウは息を吐く。
「迎えに来た。」
現再が静かに振り返る。
「御劔。」
その顔は恍惚に歪んでいた。
「よくぞ参った。」
ソウは答えない。
天穿を抜く。
現再は嗤う。
「天児。」
「ようやく御身の元へ帰る。」
「違う。」
ソウは一歩踏み出す。
「これはお前を斬る刀だ。」
現再は首を横へ振る。
「それは御身のお力。」
「お前には過ぎた力だ。」
ミコトが叫ぶ。
「ソウ!」
「そいつの話を聞いちゃ駄目!」
現再は気にも留めない。
祭壇へ向く。
「御身。」
「御劔が戻りました。」
「破邪の血もございます。」
「今しばらく。」
「お待ちください。」
「ムジナ。ミコトをお願い。」
「おう。」
ムジナはミコトの元へ駆け出す。
静寂。
まるで。
誰かの返事を待っているようだった。
ソウはゆっくり歩く。
「ミコトは返してもらう。」
現再は笑う。
「その娘は供物。」
「御身へ捧げるもの。」
ソウは止まらない。
「一人でやってろ。」
現再は穏やかだった。
「返してもらおう。」
「御劔も。」
袖から一振りの刀を抜く。
細い。
飾り気のない刀。
ソウは眉一つ動かさない。
現再もまた。
構えない。
ただ立っている。
互いに見据えた。
♢
兵介が鬼を斬る。
瀬良が笑う。
「デカブツ。念仏は唱え終わったかよ。」
兵介も笑う。
「念仏なんかしらねぇよ。」
「は!気が合うな。俺もだよ。」
二人は再び鬼の群れへ飛び込んだ。
斬る。
躱す。
斬る。
躱す。
二人は確実に鬼を減らす。
響く音は鈍く。低く。




