八十三話 千鬼衆
夜。
早池峰。
木々の間を、黒い影が揺れる。
ムジナが鼻をひくつかせた。
「来るぞ。」
その瞬間だった。
四方から唸り声。
一角。
双角。
十。
二十。
三十。
闇を埋め尽くす。
兵介が息を呑む。
「……こんな数。」
瀬良が刀を抜く。
「千鬼衆、ね。」
鬼たちが一斉に駆け出した。
「おらぁぁあ!」
兵介が飛び込む。
最初の一体を斬る。
返す刀で二体目。
その隙を突くように三体目が迫る。
ガキン。
瀬良の刀が受け止めた。
「気を付けろ!」
「悪ぃ!」
ソウは立ち止まらない。
走る。
目の前の鬼だけを斬る。
左右から迫る鬼は兵介と瀬良が受け持つ。
ムジナが木から木へ飛び移る。
「右!」
ソウが身体を捻る。
双角の爪が頬を掠めた。
次の瞬間。
天穿が閃く。
鬼は黄色い光となって消えた。
だが。
終わらない。
森の奥から。
現れる。
現れる。
兵介が舌打ちする。
「きりがねぇ!」
瀬良が辺りを見る。
「時間稼ぎだ。」
ソウも気付いていた。
現再は。
足止めしたいだけだ。
「ソウ!」
兵介が叫ぶ。
「行け!」
鬼が兵介へ殺到する。
瀬良も笑った。
「ここは俺たちが止める!」
ソウは振り返る。
二人を見る。
兵介が笑う。
「約束したろ。」
「ミコトを守らせろって。」
瀬良も刀を構える。
「角狩り。」
「お前は前だけ見ろ。」
ムジナが肩へ飛び乗る。
「行くぞ、ソウ!」
ソウは頷いた。
「ああ。任せた。」
駆け出す。
鬼が追う。
しかし。
兵介が立ち塞がる。
「一歩も行かせねぇ!」
刀が光る。
瀬良も並ぶ。
「ここから先は。」
「行かせねえ!」
ソウはもう振り返らない。
月明かりの先。
大きな岩壁が見えた。
その奥から。
微かに。
人の気配。
「……ミコト。」
ソウは速度を上げた。




