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角を狩るモノ  作者: Samail
八章 遠野

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八十話 出立

朝日が、焼け跡を照らしていた。


昨夜まで燃えていた上代家。


黒く焦げた柱。

崩れた屋根。

村人たちが黙々と片付けをしている。

誰も口を開かない。


静かな朝だった。


兵介は、一人で焼け跡を見つめていた。

拳を握る。


「……。」


隣へ小さな影が立つ。


「兵介さん。」


フミだった。

兵介は振り返る。


「怪我、大丈夫?」


「こんなのかすり傷だ。」


笑おうとする。

笑えない。


「……俺は。」


兵介は焼け跡を見る。


「守れなかった。」


フミは何も言わない。

ただ、兵介の隣へ立つ。

同じ景色を見る。


「……帰ってきますよ。」


小さく呟いた。


「ミコト様も。」


兵介は目を閉じる。


「ああ。」


社。


焼け残った小さな祠。

ソウは静かに立っていた。

アキが歩いてくる。


「ソウさん。」


「はい。」


アキは頭を下げた。


「お願いします。」


「ミコトを。」


ソウは短く頷く。


「任せて。」


その言葉だけだった。


「おーい。」


瀬良が手を挙げて歩いてくる。

旅支度。

大きな荷物。


「準備できた。」


ソウを見る。


兵介が歩いてくる。

刀を腰へ差していた。

ソウを見る。


「俺も行く。」


「傷は。」


「動ける。動かなきゃならねぇ。」


兵介は頭を下げた。


「もう一度だけ。ミコトを守らせてくれ。」


少しだけ沈黙。

ソウは兵介を見る。

そして。


「ああ。」


それだけだった。

兵介は顔を上げる。

二人は何も言わない。

それで十分だった。


「ソウー。」


河太郎とわらしが走ってくる。


「ミコト、お願いねぇ。」


「わらしからも。」


ソウは答える。


「……ああ。必ず。」


笑う。


河太郎もわらしも笑った。


「帰ってきたらみんなでお昼寝だよぉ?」


「縁側で。」


ソウは頷く。


「うん。」


村人たちが集まっていた。


「婿殿!ミコト様のことお願いします。」


見送る。


ソウ。

兵介。

瀬良。

ムジナ。


ソウは焼け跡を一度だけ見た。


「行こう。」


歩き出す。

兵介も。

瀬良も。

ムジナも。


誰も振り返らなかった。

遠く。


早池峰。

深い森の奥。


その山は。

ただ静かに。


何処かで鳶が飛び立った。

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