七十八話 堺からの使者
燃える上代家。
「ミコト!!」
ソウが叫ぶ。
返事はない。
走る、社へ。
兵介、その隣にはアキ。
兵介は意識を取り戻したばかりだった。
「兵介!」
ソウが駆け寄る。
「何があった!」
兵介は唇を噛む。
「……すまねぇ。」
拳を握る。
「ミコトは、一人で追いかけて行った。」
ソウの動きが止まる。
「追いかけた?」
アキが口を開く。
「幽木現再と名乗る男が、酒呑童子の角を奪いました。」
「ミコトは、それを止めようとして……。」
兵介。
「追い付けなかった。」
「俺が……弱かった。」
沈黙。
ソウは俯く。
「……。」
ムジナだけが気付く。
ソウの瞳が。
一瞬だけ。
赤く染まる。
しかし。
次の瞬間には消えていた。
「アキ様!」
フミが慌てた様子で近づく。
「ミコト様が、見たこともない男に!兵介さん!?どうしたの!?」
フミは兵介に駆け寄る。
「早池峰。」
ソウが呟く。
「行く。」
兵介が立ち上がろうとする。
膝をつく。
「俺も——」
「休んでて。」
ソウは短く言う。
「でも——」
「兵介。」
珍しく強い声。
「任せて。」
兵介は悔しそうに俯いて何も言えなくなる。
フミは兵介に寄り添っていた。
そこに。
「これは。」
旅装束。
顔見知りの男。
「お前は、瀬良、か?」
「おう。源蔵の使いだ。久し振りだな、角狩り。あとデカブツ。ミコトの嬢ちゃんは?」
♢
暗い牢。
水滴が落ちる。
ぽたり。
ぽたり。
ミコトはゆっくり目を開けた。
「……ここは。」
立ち上がる。
鉄格子。
岩肌。
知らない場所。
「兵ちゃん……。」
返事はない。
胸元へ手をやる。
着物の内側。
一枚の紙。
少しだけ皺になっている。
取り出して見つめる。
自然と笑みが漏れる。
――美濃。
店先。
「じゃあ、これください。」
ミコトが振り向く。
「え?」
ソウは紙を受け取る。
そして。
何でもない顔で差し出した。
「はい。」
「……。」
ミコトは紙を胸に抱く。
小さく笑う。
「……ソウ。」
涙は流さない。
ただ。
信じている。
きっと来てくれる。
そっと紙を撫でた。




