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角を狩るモノ  作者: Samail
八章 遠野

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七十七話 炎の赤

時は少し遡る。


ソウが遠野を発った日の次の夜。


――ドォン。


地を揺らすような轟音。

兵介は飛び起きた。


「……!」


枕元の刀を掴み、部屋を飛び出す。

外は騒然としていた。

屋敷の人間が逃げ惑う。


「何があった!」


返事はない。


代わりに悲鳴が響く。

兵介は社へ向かって駆け出した。

途中、倒れている人影が見えた。


「アキさん!」


駆け寄る。

肩を貸そうとすると、アキは首を横に振った。


「兵介さん……。」


苦しそうに息をする。


「鬼が……お社の方へ。」


兵介の表情が変わる。


「お願い……。」


「ああ。」


それだけ言い残し、兵介は再び走り出した。

社へ辿り着く。


そこには、無数の一角。

そして、その中心に立つミコト。


「還れ。」


黄金の光が夜を照らす。

一角たちは悲鳴を上げ、土へと溶けていく。


「ミコト!」


兵介が飛び込む。


「すまねぇ!遅れた!」


「兵ちゃん!」


振り返るミコトの表情が少しだけ緩む。


だが。

次の瞬間。

闇の中から次々と一角が姿を現した。


「くるか……!」


兵介が刀を振る。

斬る。

また斬る。


一体。

二体。

三体。


だが、減らない。


「ダメだ……!」


息を荒げる。


「数が多すぎる!」


「もう少し!」


ミコトも必死に声を張る。


「兵ちゃん!」


「おおおお!」


兵介が踏み込む。

刀が閃く。

黄金の光。


「還れ!」


眩い輝きが境内を包んだ。


光が収まる。


静寂。


一角は、一匹も残っていなかった。

ミコトがその場へ座り込む。


「はぁ……はぁ……。」


兵介も肩で息をしていた。

終わった。


「遂に……。」


声。


聞いたことのない男の声だった。


「遂に、御身と。」


社の奥。


一人の男が立っていた。

恍惚とした笑み。

その視線は、人ではない。

酒呑童子の角だけを見ていた。


「!」


ミコトの顔色が変わる。


「それに触れちゃダメ!」


男は答えない。

ゆっくりと手を伸ばす。

角へ触れた。


――バチッ!!


激しい火花が散る。

空気が震えた。

それでも男は笑う。

まるで痛みなど感じていないように。

そのまま角を持ち上げた。


「おお……。」


恍惚。

震える声。


「どけええぇっ!」


兵介が飛び出す。

刀を振り下ろす。

男は視線すら向けない。


「うるさい。」


その一言。


「羽虫が。」


兵介の身体が吹き飛んだ。

地面を転がり、柱へ叩きつけられる。


「兵ちゃん!」


ミコトが叫ぶ。

男はゆっくり振り返った。


「あなた……誰。」


男は口角を吊り上げる。


「幽木現再。」


嗤う。


「御身は、いただいていく。」


そう言って踵を返す。


「待って!」


ミコトが走る。

男を追う。


「ミ……コト……。」


兵介が手を伸ばす。

届かない。


視界が揺れる。

そして、そのまま意識を失った。


現再は歩いていた。


腕には、意識を失ったミコト。


背後では炎が燃え上がる。

上代の家。


赤く。


夜空を焦がすように。

現再は振り返りもせず、小さく呟いた。


「忌々しい……上代の血め。」


炎が答えるように赤く、揺れて。

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