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角を狩るモノ  作者: Samail
八章 遠野

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七十六話 昔日の赤

遠野を出て1日。


宮守は静かだった。


人の姿はない。

壊れた荷車。

倒れた樽。

風だけが通り抜ける。


「臭ぇな。」


ムジナが鼻を鳴らす。


「ああ。」


歩く。

酒蔵の戸は開いたままだった。

中へ入る。

赤い花。

酒の匂い。


その奥。


黒い影が動く。


一角。

低く唸りながら飛び掛かってくる。

天穿を抜く。


一閃。


首が落ちる。

振り返る間もない。


二体目。


踏み込む。

斬る。


三体目。


横薙ぎ。

胴が割れる。

静かになる。

天穿を払う。

血が飛ぶ。


奥を見る。

まだ気配がある。


ゆっくり歩く。

酒蔵の一番奥。


行商人が一人、樽にもたれて座っていた。


「待っていた。」


「お前は。」


男は笑う。


「角狩り。」


立ち上がる。


「思ったより早かったな。」


「鬼を集めたのはお前か。」


「そうだ。」


あっさり答える。


「もう終わりだ。」


「終わり?」


男は肩を震わせる。

笑っている。


「現再様は、もう御身に取り憑かれている。」


「御身?」


「おれも。」


懐から徳利を取り出す。

栓を抜く。

酒の香り。

違う。

鉄臭い。


「仙花か。」


男は笑った。


「もう戻れない。」


飲み干す。

身体が震える。

骨が鳴る。

皮膚が裂ける。

額を突き破り、角が生えた。

双角。


「行くぞ。」


男が消える。

速い。

拳。

避ける。

床が砕ける。

踏み込む。


刀を振る。

受け止められる。


「ははっ!」


鬼が笑う。


「これが鬼の強さだ!」


再び踏み込む。

今度は迷わない。


一歩。

懐。


天穿が走る。

斜めに斬り裂く。


沈黙。

男の身体が崩れる。

壁にもたれながら笑った。


「止めたければ……来い。」


血を吐く。


「早池峰。御身が……待っている……。」


息が止まる。


静かになる。

天穿を納める。


「……終わりだな。」


足元で声がした。


「そうだね。」


少しだけ息を吐く。


「相変わらず見事なもんだな。」


「そうでもないよ。」


酒蔵を出る。

山道。

夕暮れ。

風が吹く。

ムジナが急に立ち止まった。


「……なあ。」


「なんだ。」


少しだけ間。


「なんか、嫌な匂いがするな。」


ソウは立ち止まる。


世界から音が消える。




雨。


戸が倒れている。


父上。


倒れている。


赤。


血の、赤。




「ソウ!」


ムジナの声。


世界が動き出す。


ソウは顔を上げた。

山の向こう。

空が赤い。

煙。


「……。」


走る。

枝を跳び越える。

坂を駆け下りる。

森を抜ける。

息は乱れない。


ただ。

嫌な予感だけが膨らんでいく。


遠野が見えた。

そして――。


燃えていた。

上代の家が。


鬼の目の様に。

赤く。

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