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角を狩るモノ  作者: Samail
八章 遠野

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七十五話 誘蛾之計

朝。


村。


ソウとミコトが並んで歩く。


「おはよう、ミコト様。」


「おはようございます。」


村人たちが笑顔で挨拶を交わす。

ソウも軽く頭を下げた。



畑。


老人が手を振る。


「ミコト様。」


「水路、どうですか。」


「とてもいい塩梅です。」


ミコトは笑う。


「よかったです。」


ソウはミコトを見る。


「村のみんなが困らないようにするのも、お役目のひとつ。」


「今少しずつ、お母様から教わってるの。」


ソウは頷いた。


「忙しいね。」


「うん。」


「でも好き。」


そう言って笑うミコトを見て。

ソウも少しだけ笑った。



村外れ。


荷馬車が止まっている。

行商人だった。


「おや、ミコト様。」


少し世間話をして。

行商人が声を潜める。


「そういや。」


「宮守の方で鬼が増えてるらしい。」


兵介が眉をひそめた。


「鬼?」


「旅人が襲われたって話だ。」


「酒蔵の近くだとか。」


ソウが静かに聞く。


「酒蔵。」


「ええ。」


「近頃、誰も近寄らなくなりました。」


ミコトは少し不安そうな顔になる。


「……ありがとう。」



上代家。

屋敷へ戻ると。

アキが待っていた。


机の上。

仙花。

小さな器。

砕いた薬草。

紙いっぱいの書き付け。


「調べ終わりました。」


全員が座る。



アキが静かに話し始める。


「仙花。」


「これは酒ではありますが。」


「毒です。」


兵介が顔をしかめる。


「毒?」


「ええ。」


「飲めば。ほとんどは死にます。」


静かな空気。


「稀に。」


「彼岸を越え鬼となる者が現れます。」


ソウは黙って聞いていた。


「そして。鬼となった者は。」


「酒が切れると人へ戻ります。」


兵介が驚く。


「戻るのか。」


「ですが、再び仙花を飲めば、再び鬼になります。」


「それを繰り返せば。」


「やがて、人には戻れなくなります。」


部屋が静まり返る。

アキは仙花を見つめた。


「こんなものは、存在してはいけない。」



ソウがぽつりと言う。


「そういえば、酒蔵。」


「一つだけ残ってた。」


地図を取り出すソウ。

ムジナも思い出す。


「ああ。」


「ここか。」


兵介も頷いた。


「宮守。」


兵介が立ち上がる。


「俺が行く。新婚にそんなことさせられるか。」


ソウは少しだけ笑った。


「ありがとう。でも。」


兵介を見る。


「双角以上がいたら。」


「兵介。」


「死ぬよ。」


兵介は言葉を失う。


「だから。ここにいて。」


「ミコトを守って。」


「兵介以外に、任せられない。」


兵介は拳を握った。

悔しそうに俯く。


「……ぐ。しょうがねぇな。」


「絶対守る。」


ソウは頷いた。


「お願い。」


ムジナが肩へ飛び乗る。


「俺はソウについて行くぞ。」


ソウは笑う。


「よろしく。」


「おう。」



夜。

屋敷の外。

木陰。


行商人の男が静かに立っていた。


口元だけが笑う。

そして。

闇へ溶けるように姿を消す。


その目は、酷く赤く濁っていて。

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