七十四話 祝言
朝。
上代家。
朝から屋敷が慌ただしい。
使用人たちが走り回る。
河太郎は大きな桶を運び。
わらしは小さな花を抱えて歩いている。
「……きれい。」
◇
兵介は落ち着かない。
「俺まで緊張してきた……。」
団子屋の娘のフミがお茶を差し出す。
「どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
フミは笑う。
「兵介さんの方が花婿みたい。」
「やめてくれ。」
兵介は照れて頭を掻く。
フミはくすっと笑った。
◇
庭。
ムジナが白狐の隣に寝転がる。
「人間って大変だな。」
白狐は笑う。
「好きになったら、こういうもんだよ。」
「狐もやるのか?」
「やるよ。」
「へぇ。」
二匹は縁側を眺めた。
◇
わらし。
河太郎。
二人並んで座る。
「……おめでとう。」
「おめでとぉ。」
二人は笑う。
◇
庭先。
祝言。
豪華ではない。
家族と村人が集まる。
あやかしたちも集まる。
誰も騒がない。
ただ。
皆が笑っていた。
◇
白無垢姿のミコト。
兵介は思わず呟く。
「綺麗だな……。」
コトも頷く。
「うん。」
反対側。
紋付姿のソウ。
ムジナが笑う。
「似合ってんじゃねぇか。」
ソウは少し照れた。
「ありがとう。」
◇
アキが前へ出る。
「本日。」
「上代家次期当主、ミコト。」
「そして。」
「ソウ。」
「二人の門出を祝い。」
「ここに祝言を執り行います。」
静かな風。
鳥の声。
◇
盃。
互いに受け取る。
静かに口を付ける。
風が吹いた。
社の方から。
柔らかい風だった。
わらし。
嬉しそうに手を叩く。
「……ぱちぱち。」
河太郎も真似する。
「ぱちぱちぃ。」
妖たちも笑う。
村人たちも笑う。
やがて。
大きな拍手になった。
◇
宴。
村人が料理を運ぶ。
子供が走る。
河太郎は酒を飲み。
白狐は魚を食べ。
ムジナは団子を頬張る。
「うめぇ。」
「一つちょうだい。」
「じゃあ魚も寄越せ。」
白狐が笑う。
「ほら、交換。」
「おう。」
◇
兵介。
フミの隣。
「ねえ、兵介さんはいいと人いるの?」
「ええ?!い、いねぇけども。」
少し沈黙。
フミが小さく笑う。
「……、そっか。」
「ああ。」
兵介は少し困ったように笑う。
「それなら、さ?」
フミは兵介の手を握った。
◇
夕方。
宴も終わる。
縁側。
ソウとミコト。
並んで座る。
誰もいない。
ミコトが小さく笑う。
「夫婦だね。」
ソウも笑う。
「うん。」
少しだけ間。
ミコトはそっとソウの肩にもたれた。
ソウは何も言わない。
ただ。
静かに寄り添った。
遠野の山に。
穏やかな夕日が沈んでいく。
「見つけた。」




