七十二話 麓の村
朝。
小鳥の鳴き声。
障子から柔らかな朝日が差し込む。
兵介は大きく伸びをした。
「いい朝だぁ……。」
廊下へ出る。
「ソウー。」
返事がない。
「どこ行った?」
縁側。
ソウ。
わらし。
河太郎。
三人並んで、お茶を飲んでいた。
兵介は思わず笑う。
「馴染んでんなぁ。」
ソウは湯呑みを置く。
「おはよう。」
河太郎が笑う。
「朝のお茶、おいしいよぉ。」
わらしも小さく頷いた。
「……おいしい。」
◇
朝食。
アキが穏やかに口を開く。
「今日はゆっくり休んでください。」
ミコトは少し考えてから微笑んだ。
「それなら。」
ソウを見る。
「村、案内するね。」
「うん。」
兵介は勢いよく立ち上がる。
「市場ある?」
ミコトは笑う。
「あるよ。」
「よし!」
◇
村。
朝から賑やかだった。
畑。
商人。
鍛冶屋。
井戸端。
その横を、小さな妖怪が走っていく。
誰も驚かない。
河童が荷物を運び。
白い狐が子供と遊んでいる。
ムジナはそこへ向かっていく。
「こっちの狐は白いのかよ。」
「田舎臭い狸がいるねぇ?」
「なんだと!?てめえだって田舎モンだろ!?」
一触即発。
いや、ただのじゃれあい。
ソウは可笑しそうにそれを眺め。
「人と妖怪が普通に暮らしてる。」
ミコトは頷く。
「ここでは当たり前だから。」
◇
「ミコト様!」
野菜屋のおばあさんが笑う。
「おかえり!」
「ただいま。」
籠いっぱいの野菜を渡される。
「持っていきな。」
「ありがとう。」
少し歩けば、
「団子食べる?」
「あら、新しいお客様?」
「元気そうで安心したよ。」
次々と声が掛かる。
兵介が笑う。
「人気者じゃねぇか。」
ミコトは照れ笑い。
「みんな優しいから。」
ソウは静かに頷いた。
「いい村だね。」
◇
「あっ。」
子供がソウを見つける。
「お兄ちゃん!」
もう一人。
また一人。
気付けば囲まれていた。
「刀かっこいいねー?」
子供たちは目を輝かせる。
群がってソウに遊んでとせがむ。
「鬼ごっこ!」
「木登り!」
「肩車!」
ソウは少し困ったように笑う。
「順番ね。」
子供たちは歓声を上げた。
村人たちはその様子を見ながら微笑んでいる。
「優しい人だね。」
「ミコト様にぴったりだ。」
「婿殿か?ありゃ。」
「あっちのでかいのは?」
「アイツはちがうだろ。」
ミコトは聞こえないふりをした。
◇
兵介。
一人で団子屋へ。
「うめぇ!」
店番の娘がくすっと笑う。
「そんなに?」
「今まで食った団子で一番うめぇ!」
娘は一本包む。
「はい。」
兵介は首を傾げる。
「俺、二本しか頼んでねぇぞ?」
「一本、おまけ。」
「え?」
兵介は少し照れながら受け取る。
「ありがとう。」
娘はにこっと笑った。
「また来てね。」
兵介、ぎこちなく笑う。
「あ、ああ。また来るよ。」
娘は嬉しそうに頷いた。
◇
帰り道。
夕日が山を赤く染めていた。
ソウがぽつりと言う。
「平和な村だ。」
ミコトは頷く。
「うん。」
少しだけ空を見上げる。
「私、この村が好き。」
ソウも空を見上げた。
「そうだね。」
少しだけ間。
「守りたくなる。」
ミコトは嬉しそうに笑った。
「うん。」
二人の少し前を。
兵介がとムジナが歩く。
後ろには子供たちと白い狐。
「また遊ぼうな!」
「約束ー!」
「おう!」
遠野の一日は、
ゆっくりと暮れていった。




