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角を狩るモノ  作者: Samail
七章 三人と一匹

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七十話 遠野

朝。


遠野。


空気が違っていた。

風は冷たく。

水は澄み。

山は静かだった。

兵介は辺りを見回す。


「ここが遠野か。」


ソウもゆっくりと景色を見る。


「いいところだね。」


ミコトは嬉しそうに頷いた。


「うん。」


その笑顔は、旅の途中では見せなかった類いのものだった。



道は細くなる。


山へ。

さらに山へ。

人の姿は消え。

鳥の声だけが聞こえる。


兵介が苦笑する。


「本当に人住んでんのか?」


「住んでる。」


ミコトは迷いなく歩く。

ソウはその後ろを歩きながら。

ふと足を止めた。


「……?」


木の枝。

白い猿。

目が合う。

猿は小さく頭を下げると。


音もなく山へ消えた。


兵介は気付かない。


ムジナが笑う。


「歓迎されてるな。」


「そうなの?」


「そういう山だ。」


また歩き出す。

少し進く。

今度は鹿が一頭。

こちらを見る。


逃げない。


軽く首を下げるようにして。

森へ帰っていく。

兵介が呟く。


「ここの獣。やけに賢くねぇか。」


ソウは笑った。


「そうかも。」


木の枝枝にちいさなあやかし。

みんな楽しそうに歌っていた。



やがて。

森が開ける。


大きな屋敷。

長い塀。

立派な門。

山の中とは思えないほど手入れが行き届いていた。


兵介は口を開ける。


「……でけぇ。」


ミコトが懐かしそうに笑う。


「帰ってきた。」


ミコトは門の前へ立つ。

そっと手を添えた。


ぎぃ……


門がひとりでに開く。

いや、よく見ればあやかしたちが開けていた。


兵介が固まる。


「……多すぎねぇか?」


「いつもこんな感じ。」


ミコトは当たり前のように答えた。


「そ、そうか。」


「腰が引けてるぞ、兵介。」


ムジナがからかう。



庭へ入る。


池。

河童。

古木。

細長いの。

風鈴。

風もないのに。

小さく鳴る。

ちりん。


兵介が辺りを見回す。

ムジナが笑う。


「見られてるぞ。」


「え。」


「歓迎してる。」


兵介は慌てて周りへ頭を下げた。


「ど、どうも。」


どこからか。

小さな笑い声が聞こえた気がした。


ソウも辺りを見る。

多い。


でも。

嫌な感じがない。


この家は。

人だけが住んでいる場所ではない。

そう思った。



玄関。


静かに戸が開く。

一人の女性が立っていた。

年は四十ほど。

白い着物。

穏やかな笑み。


その姿を見たミコトは。

小さく頭を下げる。


「ただいま。」


女性は優しく微笑んだ。


「おかえりなさい。」


その視線が。

ゆっくりとソウへ向く。


兵介へ。


ムジナへ。


そしてもう一度。

ソウを見る。


静かな間。

やがて。


「ようこそ。」


柔らかな声だった。


「上代家へ。」


ソウは頭を下げる。


その穏やかな笑顔の奥で。

ほんの一瞬だけ。

ソウの腰にある天穿へ視線が止まる。


「……。」


何も言わない。

ただ。

少しだけ目を細めた。


遠く。

屋敷のどこかで。

鐘が一つ。

静かに鳴った。

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