七話 鬼の強さ
昼。
村の外れ。
新吉は石を蹴りながら歩いていた。
ソウはその後ろを、のんびりついていく。
「にいちゃん。」
「うん?」
「鬼ってさ、どれくらい強いの?」
不意の質問だった。
ソウは少しだけ空を見上げる。
「一角は……まあ、十人もいれば倒せる。」
「十人?」
「鍛えた人なら、ね。」
新吉は少し考える。
「じゃあ、この前のやつは?」
「町に出たやつ?」
「そう、アイツ角ふたつ、あったよね?」
「そうだね。」
軽く言う。
「あれは双角っていう。」
「双角は?どれくらいいれば倒せる?」
「……五十人くらいかな。」
「五十!?」
思わず声が上がる。
「あくまで目安だけどね。」
ソウは肩をすくめた。
その様子を見て、新吉は少し黙る。
「そんなの、倒したの?」
「双角にも強い、弱いがあるからね。」
あまり興味なさそうに答える。
「あれは強かった?」
「そうでもなかった、かな。」
それだけだった。
ソウは言わなかったが、さらに上がいる、という話もある。
王角、と呼ばれるものだ。
風が吹いた。
新吉はふと、思い出したように言う。
「そういえばさ。」
「うん。」
「にいちゃんって、どこから来たの?」
少しだけ、間。
ソウは前を向いたまま答える。
「四国の方だよ。向こうの島だ。」
「島!?」
「うん。」
「そんなとこから?」
「まあね。」
それ以上は言わない。
新吉はしばらく考えてから、また歩き出した。
「……そう考えると、長ぇな付き合い。」
肩で、小さな声。
ムジナだ。
ソウは少しだけ笑う。
「そうだね。」
その時だった。
村の方から、慌てた足音が近づいてくる。
「おい!ソウ!」
駈けてきた男は、新吉の父親だった。
「どうしました。」
「出た……!」
肩で息をしながら。
「双角だ!」
空気が、少しだけ変わる。
新吉が固まる。
「……どこに。」
ソウの声が、わずかに低くなる。
「山の入口だ!人がやられてる!」
風が止まった気がした。
ソウはゆっくりと息を吐く。
「分かりました。」
それだけ言って、駆け出す。
新吉が後ろから呼ぶ。
「にいちゃん!」
振り返る。
「来るなよ。」
短く、それだけ。
肩の上で、ムジナが小さく言った。
「……五十人分、か。」
ソウは答えない。
ただ、前を見る。
カラスが、嫌な声で鳴いていた。




