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角を狩るモノ  作者: Samail
七章 三人と一匹

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六十八話 信濃

朝。


信濃。


山々は深く。

冷たい風が頬を撫でる。


街道には旅人。

荷馬。

商人。

山の匂いが濃かった。


兵介は大きく息を吸う。


「空気はうめぇな。」


「ご飯もおいしい。」


ミコトが頷く。


「結局食い物か。」


兵介が笑う。

ムジナが肩の上で欠伸をする。


ソウは懐から地図を取り出す。

赤い印。

残るは二つ。

その一つは、この山の向こうだった。


「行こう。」


三人と一匹は山へ入っていった。



昼。


森の奥。


酒蔵。


静まり返っている。


樽。

酒瓶。

誰もいない。


兵介が刀を抜く。


「……来るぞ。」


次の瞬間。

唸り声。

一角が一体。

二体。

三体。

四体。

五体。


一斉に飛び掛かってきた。


兵介が前へ出る。


「ここは俺だ!」


鬼が迫る。

刀が閃く。


一体。

二体。

三体。


息が上がる。


四体目。


肩を掠められる。


「ちっ!」


踏み込む。

斬る。

残る一体。


咆哮。


兵介は大きく息を吸い。


「おおおおおっ!」


最後の一太刀。

首が飛ぶ。

鬼は崩れ落ちた。


兵介は刀を肩で息をしながら。


「どうだ!」


ソウは笑う。


「強くなったね。」


兵介は鼻を擦る。


「誰と旅してると思ってんだ。」


ムジナが笑う。


「少しは様になってきた。」


兵介は照れ臭そうに笑った。


濃い気配。


酒蔵の奥。

重い足音。


ぎぃ。


扉が開く。


二本角。

双角。


兵介の笑顔が消えた。


「……まだいたか。」


ソウが静かに前へ出る。


「休んでて。」


兵介は何も言わず。

一歩だけ下がった。


双角が吠える。

踏み込む。


ソウも踏み込む。


一閃。

それだけだった。


首が落ちる。


黄色い光が舞い上がる。

静かに。

天穿へ吸い込まれていった。


ソウは刀を見つめる。


「……。」


ほんの少しだけ。

柄が温かい。

ムジナが横で笑う。


「戻ってきたか。」


ソウは頷く。


「少しだけね。全部使っちゃったから。」


兵介が首を傾げる。


「何の話だ?」


ソウは笑う。


「さあね。」


酒蔵へ火が放たれる。

煙が空へ昇っていく。

地図の赤い印が。

また一つ消えた。



夜。

宿。

囲炉裏の火が静かに揺れていた。

兵介は包帯を巻き終え。

布団へ倒れ込む。


「いてて……。でも。」


少し笑う。


「俺もやれた。」


ソウも頷く。


「うん。」


ムジナは天穿を見つめる。

ソウは柄へ触れる。 


「また集まってきてる。」


太郎坊の声が脳裏をよぎる。


『溜めるな。』


『喰わせろ。』


ソウは静かに刀を鞘へ納めた。


「……あぁ。」


囲炉裏の火が。

小さく揺れて。

ぱちんと弾けた。

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