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角を狩るモノ  作者: Samail
七章 三人と一匹

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六十七話 美濃

朝。


美濃。


町は賑わっていた。


行き交う旅人。

荷車を押す商人。

客を呼ぶ店主の声。


堺ほどではない。

それでも十分な賑わいだった。


兵介は辺りを見回す。


「人、多いなぁ。」


「美濃は栄えてるからね。」


ソウが答える。


「紙の町でもある。」


「紙?」


兵介が首を傾げた。


ミコトの足が止まっている。


一軒の店。

軒先には何十枚もの和紙が吊るされていた。


風がはたはたと揺らす。

白い紙が静かに揺れる。


朝日を受け。

細い繊維が淡く透けていた。

一枚一枚。

微妙に違う。

厚さも。

色も。

形も。

ミコトは黙って見つめていた。


ソウが隣へ立つ。


「欲しいの?」


ミコトは小さく首を振る。


「きれいだなって。」


それだけだった。


兵介が不思議そうな顔をする。


「どうすんだよ、紙なんて。」


ミコトは兵介を見る。


「食べ物じゃないよ?」


兵介は眉をひそめた。


「わかっとるわぁぁ!!」


ムジナが吹き出した。


店の奥から老人が笑いながら出て来る。


「嬢ちゃん。紙が好きかい。」


ミコトは頷く。


老人は店先を見回し。

端へ積まれた紙束を持ってきた。


「屑紙なら安くしとくよ。」


よく見ると。

少しだけ端が欠けている。

少し小さい。

繊維も少し粗い。


それでも。

陽に透かせば十分綺麗だった。


ソウは懐から銭を取り出す。


「じゃあ。これください。」


ミコトが振り向く。


「え?」


ソウは紙を受け取り。

そのままミコトへ差し出した。


「はい。」


ミコトは少しだけ目を丸くした。


紙を見る。

少し欠けている。


ソウを見る。

そして。


「……ありがとう。」


大事そうに両手で受け取る。

そっと畳み。

懐へしまった。

宝物のように。


老人は穏やかに笑っていた。


「大事にしてやってくれ。」


「うん。」


ミコトは静かに頷いた。



夜。


旅籠。


今日は一部屋貸し切りだった。

兵介は布団へ飛び込む。


「ふあぁぁぁ……。布団だぁぁ。」


ごろりと転がる。


「最高。」


ソウは苦笑する。


「徳兵衛さんのおかげだね。」


「ほんと感謝だ。」


兵介は布団へ顔を埋める。

ムジナはその隣で丸くなった。


「兵介はどこでも寝られるだろ。」


「それとこれとは別だ。」


兵介は真顔だった。

ムジナが笑う。


「人間って贅沢だな。」


囲炉裏では湯が静かに沸いていた。


木が爆ぜる。

ぱちり。


小さな音だけが部屋へ響く。

ソウは荷から地図を取り出した。

源蔵から渡された道筋。


赤い印。

墨を取り。

二本。

静かに線を引く。


残る印は二つ。


ミコトが地図を覗き込む。


「あと二つ、だね。」


ソウは頷く。


「うん。」


ムジナが欠伸をした。


「これで全部とは限らねぇだろ。」


部屋が少し静かになる。

ソウは地図を見つめたまま。


「……そうだね。」


静かに畳んだ。


空には三日月が浮かんでいた。



どこかの山奥。


朽ち果てた寺。


屋根は崩れ。

仏像は首を失い。

柱には黒い染みが残っている。

月明かりも届かない。

湿った空気。

古い血の臭い。


本堂の奥。

男が一人。

胡座をかいていた。

黒い着物。

長い髪。


ゆっくりと盃を傾ける。


「現再様。」


部下が膝をつく。


「何者かに酒造所が襲撃されております。」


「現在、稼働できるのはあと三ヶ所。」


静寂。


盃だけが小さく鳴る。

別の男が駆け込んできた。


「現再様!」


「美濃の酒造所も襲撃されました!」


「紅眼様も……。」


息を呑む。


「討たれた模様です。」


静寂。


現再はゆっくり盃を置いた。


「紅眼も。やられたか。」


誰も喋らない。


「唯一、王角へ至れた男だった。」


現再は少しだけ目を閉じる。


「御身の行方は。」


部下が答える。


「奥州の辺りまでは。」


現再は静かに笑った。


「角狩り、か。」


朽ちた寺。


赤い口は三日月の様に、嗤った。

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