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角を狩るモノ  作者: Samail
七章 三人と一匹

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六十五話 外道丸

木葉天狗の後を追い、山道を登る。


細い獣道。

杉が空を覆う。

風が葉を鳴らす。

やがて。


視界が開けた。


山の頂。

巨大な社が建っていた。

長い石段。

苔むした灯籠。

何百年も風雨に耐えた鳥居。


太い御神木が社を抱くように立っている。


空気が違った。

静か。

それでいて。

山そのものが息をしているようだった。


兵介が思わず呟く。


「……でけぇ。」


木葉天狗は嬉しそうに飛び回る。


「ここだよー!」


社へ向かって大声を上げた。


「あるじー!連れてきたよー!」


風が止む。


社の奥。

ゆっくりと、一人の男が姿を現した。


長い白髪。

山伏姿。

背には大きな黒い翼。

鋭い眼。

それだけで、山の主だと分かった。


兵介が思わず息を呑む。


「……。」


太郎坊は何も言わない。


ただ。

ソウの腰にある刀を見る。


静かな時間が流れた。

やがて。


「……天児(あまがつ)。」


低い声だった。

ソウが首を傾げる。


「知ってるの?」


「うむ。」


ミコトの肩が僅かに震えた。


太郎坊は続ける。


「昔。外道丸という男がおった。」


ソウは静かに聞く。


「鬼を斬り。鬼を喰らい。人を護った男だ。」


風が吹く。


「だが。」


少しだけ目を閉じる。


「鬼を喰らい続け、やがて鬼へ堕ちた。」


ソウは黄色い光を、殺意を、彼岸の力を思い出していた。


「人は、堕ちた外道丸を『酒呑童子』と呼んだ。」


静寂。


兵介は言葉を失う。


「酒呑童子って……。」


「そして討たれた。」


それだけだった。


まるで。

五百年前の出来事を。

昨日のことのように語る。


ソウは天穿を見る。

静かに鞘へ触れた。


「……。」


太郎坊は頷く。


「昔話よ。今さら掘り返すものでもない。」


風が吹く。


話は終わった。

太郎坊は山の向こうを見る。


「……近頃。歪な鬼が増えた。」


ムジナが頷く。


「あぁ。」


「山のあやかしどもも怯えてる。」


「原因は。」


太郎坊が言う。


「酒。」


「鬼へ堕ちる酒。」


ソウも頷いた。


「仙花。」


少しだけ間。


「道中。そのような酒造所を見つけたなら。」


兵介が聞く。


「壊せってことか?」


太郎坊は静かに頷いた。


「頼む。妖は人が始めた災いへ手は出さぬ。」


ソウは頷いた。


「わかった。見つけたら止める。」


太郎坊は小さく目を細めた。


「うむ。」


風が吹く。


しばらく誰も喋らなかった。

やがて。

太郎坊がソウを見る。


「ソウ。」


「うん。」


「お前は堕ちるな。」


静かな声。


「鬼を溜めるな。」


「喰わせろ。」


「よいな。」


ソウはゆっくり頷いた。


「うん。」


少しだけ笑う。


「ありがとう。」


太郎坊は黙っていた。


そして。

ほんの少しだけ。

口元を緩めた。


「行け。」


その一言だった。

木葉天狗がぶんぶん手を振る。


「またねー!」


兵介も手を振り返す。


「団子はもうねぇぞー!」


「えぇー!」


山に笑い声が響く。

三人と一匹は、再び北へ向かって歩き始めた。

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