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角を狩るモノ  作者: Samail
六章 仇討

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五十五話 血の臭い

風が吹く。

冷たい。

雲に隠れた月が、ゆっくりと姿を現した。


ソウの足が止まる。


「……。」


鼻が動く。

兵介が顔を見る。


「どうした。」


ソウは山の奥を見つめていた。


「血の臭い。」


短い言葉だった。

ムジナも肩の上で鼻を鳴らす。


「あぁ。」


「新しい。」


瀬良も空気を読むように目を細めた。


その時だった。


ガサッ。


草むらが激しく揺れる。

小さな影が転がるように飛び出してきた。


子供だった。

十にも満たない。

着物は泥と血で汚れ。

肩を押さえながら必死に走ってくる。


「た……助けて……。」


力尽きるように倒れた。

兵介が咄嗟に抱き起こす。


「おい!」


ソウも膝をつく。

傷を見る。

肩口。

深い。

刃物で抉られたような傷だった。

ミコトも静かに隣へ座る。

傷へ手を添える。

目を閉じる。

しばらくして。

ゆっくり首を振った。


「……駄目。」


瀬良が聞く。


「どうした。」


「深い。」


短い返事。


「このままだと助からない。」


兵介の表情が強張る。


「治せるのか。」


「うん。」


ミコトは頷く。


「でも。」


傷を見る。


「ここじゃ無理。」


風が吹く。

子供の呼吸は浅い。

今にも止まりそうだった。

瀬良が迷わず子供を背負う。


「宿へ戻る。」


ミコトも立ち上がる。


「私も。」


子供が震える手を伸ばした。

山を指差す。


「あっち……。」


息を切らしながら。


「鬼が……。」


ソウは風上を見る。

血の臭い。

さっきより濃い。

まだ近い。

瀬良もソウを見た。

一瞬だけ。

視線が交わる。


「こっちは任せろ。」


静かな声だった。


「お前らは鬼を追え。」


ソウは頷く。


「頼む。」


兵介も立ち上がる。

刀へ手を掛けた。


「行くよ。」


「ああ。」


ムジナが兵介の肩へ飛び乗る。


「遅れんなよ、兵の字!」


「わかってらぁっ!」


二人は地面を蹴る。

闇の中へ。

風を追うように駆け出した。

残された瀬良は子供を背負き直す。

ミコトが傷口へ布を当てた。


「大丈夫。」


優しく声を掛ける。


「助ける。」


子供は薄く目を開けた。

震える唇が動く。


「……お父さんが。」


瀬良の足が止まる。


「何?」


子供は涙を流した。


「お父さんが…。」


息が詰まる。


「お父さんが鬼に……。」


風が吹く。


月明かりに照らされた赤い花が。

静かに揺れていた。

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