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角を狩るモノ  作者: Samail
六章 仇討

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五十四話 赤い花

夜。


村は静まり返っていた。


灯りは少ない。

風だけが軒先を揺らしている。

兵介は障子を少しだけ開けた。


「……静かすぎねぇか。」


「うん。」


ソウも頷く。

昼間から感じていた違和感。

夜になっても。

何一つ変わらなかった。


「行こう。」


ソウが立ち上がる。

瀬良も小太刀を腰へ差した。


「派手には動くな。」


「わかってる。」


兵介が刀を担ぐ。


「俺だって少しは学んだ。」


ムジナが鼻を鳴らした。


「怪しいな。」


兵介が睨む。


「喧嘩売ってんのか。」


「猪だろ?兵ちゃん。」


小さく笑いが漏れる。


その空気も。

宿を出た瞬間に消えた。


村は暗い。

人の気配はある。

だが。

誰も外へ出ていない。

雨戸は閉まり。

灯りも小さい。

息を潜めているようだった。


「……嫌な風。」


ミコトが呟く。


「うん。」


ソウも短く返した。

村外れまで歩く。

風が吹いた。

草が揺れる。

その時。

ミコトの足が止まった。


「どうした。」


瀬良が聞く。

ミコトは何も言わない。

ゆっくり。

草むらへ入っていく。

兵介も後を追う。


「おい。」


月明かり。

そこだけ。


赤かった。

花。

見たことのない花だった。


細い茎。

深い赤。

風に揺れるたび。

まるで血が流れているように見える。

兵介がしゃがみ込む。


「なんだこれ。」


「……。」


ミコトは一輪だけ摘む。

じっと見つめる。

匂いを確かめる。

その顔が少しだけ曇った。


「知ってるのか。」


瀬良が静かに聞く。

ミコトは答えない。


代わりに。

地面を掘った。

浅く。

土を払う。

兵介が目を細める。


「何してんだ。」


「見て。」


土の中。

赤い根が広がっていた。

一本。

二本。

違う。

一面だった。


「全部、繋がってる。」


静かな声。

兵介が辺りを見回す。


月明かりの下。

赤。

赤。

赤。


今まで気付かなかった。

村外れ一帯。

見渡す限り。

赤い花だった。

瀬良が低く呟く。


「自然じゃねぇな。」


ミコトが小さく頷く。


「誰かが植えた。」


その瞬間だった。


カサッ。


草が鳴る。

全員が振り向く。

誰かいる。


ソウが駆ける。

草を掻き分ける。

だが。

誰もいない。

残っていたのは。

泥だらけの草履の跡だけだった。

ソウはしゃがみ込む。

新しい。

ついさっきまで。

ここに誰かいた。


その時。


遠くで。

鐘が鳴った。


ゴォン……

一度だけ。

村中へ響く。

兵介が顔を上げる。


「……なんだ?」


その音を聞いた瞬間。


雲が月を隠した。

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