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角を狩るモノ  作者: Samail
六章 仇討

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五十二話 道中

朝。


堺を離れて半日。

海の匂いはもうしない。


代わりに。


土。

草。

山の風。


街道は細くなり。

人影も少なくなっていた。


兵介が大きく伸びをする。


「暇だな。」


「いいことだよ。」


ソウが答える。


「ふぁぁ。」


兵介の欠伸。

瀬良が鼻で笑う。


「平和ってことだ。」


「それはそれで眠くなる。」


その横。

ミコトは道端へしゃがみ込んでいる。


「何やってんだ。」


「草。」


「見ればわかる。」


「薬になる。」


兵介が顔をしかめる。


「全部同じに見える。」


「兵ちゃんは猪だから。」


「誰が猪だ。」


ミコトは真面目な顔だった。

余計に腹が立つ。


ソウは少しだけ笑った。


風が吹く。

草が揺れる。

ソウが空を見上げる。


「ムジナ。」


肩の上。

丸くなっていたムジナが片目を開けた。


「なんだよ。」


「先見てきてくれる?」


「めんどくせぇな。」


言いながら立ち上がる。


「しゃあねぇなぁ。」


ひょい。

肩から飛び降りた。

途中で姿が揺れる。


毛が羽へ変わる。

嘴。

翼。

小さな鷹。


そのまま空へ舞い上がった。


兵介はもう慣れている。

ミコトも普通に見送った。


だが。

瀬良だけは少し眉を上げた。


空を見上げる。

遠ざかる影。

そして。

ソウを見る。


「あいつ。」


「うん。」


「式神か?」


ソウは首を傾げた。


「いや?友達だよ?」


沈黙。


瀬良が空を見る。

ソウを見る。

また空を見る。


「友達。」


「うん。」


「今鳥になったぞ。」


「なるね。」


「妖だろ。」


「妖だね。」


「友達なのか。」


「友達だよ。」


瀬良は黙った。

兵介が吹き出す。


「諦めろ。」


「何を。」


「こいつらに常識は通じねぇ。」


「知ってる。」


瀬良が疲れた顔をした。

ミコトが頷く。


「うん。」


「お前もよっぽどだと思うぞ?」


兵介が突っ込む。

虚しく木霊した。


しばらくして。

空から影が降りてくる。


鷹。

途中で姿が揺れ。

再びムジナになる。

ソウの肩へ着地した。


「どうだった。」


「変な村だ。」


空気が少し変わる。

兵介も顔を上げた。


「変?」


ムジナが鼻を鳴らした。


「畑はある。」


「家もある。」


「煙も出てる。」


「じゃあ普通じゃねぇか。」


「普通じゃねぇ。」


ムジナは続けた。


「妖がいねぇ。」


風が吹いた。


誰も喋らない。

山には色々いる。


狐。

狸。

古い木。

名もない妖。


普通なら。

何かしらいる。


だが。

いない。

一匹も。


瀬良が小さく舌打ちした。


「嫌な話だな。」


ミコトも空を見る。


「うん。」


珍しく同意した。

ソウは前を見ていた。

山の向こう。

薄く煙が見える。

目的地。


「もうすぐだね。」


誰に言うでもなく呟く。


風が吹く。

どこか冷たい風だった。

遠く。

山の谷間に。

村が見えていた。

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