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角を狩るモノ  作者: Samail
六章 仇討

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五十一話 追い付いた影

番頭が持ってきた袋を兵介へ渡す。

重い。

兵介が顔を引きつらせた。


「お、おい。」


中を見る。

銀。

思ったより入っていた。


「多くねぇか?」


「命の値段と思ってください。」


徳兵衛は笑う。


「安いくらいですよ。」


兵介が何か言おうとして。

やめた。

代わりに頭を掻く。


「……ありがとな。」


徳兵衛は嬉しそうに笑った。


ソウが尋ねる。


「徳兵衛さん。」


「はい。」


「千鬼衆に教われた原因に心当たりは?」


少しだけ。

徳兵衛の表情が曇る。

店の空気も変わった。


「……おそらく。私が援助を断ったのが原因でしょうな。」


徳兵衛は少し迷い。

やがて頷いた。


「堺で商いをしていると、耳に入ります。」


声を落とす。


「最近、急に力を付けてきた連中です。」


「あやかし狩りか?」


「いえ。」


首を振る。


「鬼を使う側です。」


静かだった。


「できれば関わらない方が良い。」


徳兵衛はそう言った。


「……ですが。」


ソウを見る。


「あなたは、行くのでしょう。」


ソウは少しだけ考え。

頷いた。


「おそらく。」


徳兵衛は苦笑した。

その顔は。

止めても無駄だと知っている顔だった。


夕方。


宵屋。

煙草の煙が漂う。

源蔵はいつもの席にいた。


「帰ったか。」


「うん。」


「生きてるな。」


「一応。」


源蔵が鼻を鳴らす。


「ふん。」


兵介が顔をしかめた。


「なんだよそれ。」


「死にかけた顔だ。」


源蔵はソウを見る。


「で。」


煙を吐く。


「千鬼とやり合ったか。」


ソウが頷く。


「奴らが何かを飲んだ瞬間、鬼に成った。」


その瞬間。

源蔵の目が少しだけ細くなった。


「そうか。」


短い返事。


「仙花、というらしい。鬼に堕ちる酒だ。」


「仙花、せんか、泉下、ねぇ。」


「千鬼の連中が量産してるって話だ。」


少し間。


「山奥だ。そこで仙花を作って人体実験をしてるって話だ。」


「……そこにいるんだね?」


空気が変わる。


「左頬に傷のある男。」


ソウが言う。


源蔵は煙管を置いた。

沈黙。

しばらくして。

口を開く。


「あぁ。」


それだけだった。

兵介が思わず息を飲む。


ソウは黙って聞いていた。


「だが。」


源蔵が言う。


「やめておけ。」


初めてだった。

源蔵が。

はっきり止めた。


兵介も驚いた。

ソウも少しだけ目を瞬かせる。


「今ならまだ。」


源蔵は煙を吐く。


「引き返せる。」


静かだった。

ソウは少し考える。

そして。


「もう遅いよ。」


続ける。


「……引き返せるなら、とっくに引き返してる。」


二人とも分かっていた。

引き返さない。

その事を。


宵屋を出る。


夕焼け。

赤い空。

兵介が大きく伸びをした。


「さて、どうする?」


「行くよ。」


ソウが言う。

兵介は笑った。


「だよな。」


その時。


「私も行く。」


ぼんやり話を聞いていたミコトだった。

兵介が頭を抱える。


「ついてくんのかよ。」


「うん。」


即答。

ソウが困った顔をする。


「危ないよ?」


「うん。」


ミコトは頷く。

そして。

当然みたいに言った。


「でも行く。」


兵介が空を見上げた。


「話聞かねぇなぁ。」


「兵ちゃんが残っててもいいんだよ?」


「アホか。俺は見届け人だ。」


いつものやり取り。

その時だった。


「よう。」


声。

振り向く。


壁にもたれていた男が一人。


長い前髪。

細い目。

小太刀二本。

兵介が嫌そうな顔をした。


「げ。」


男が笑う。


「随分な挨拶だな、デカブツ。」


双影の瀬良。

瀬良は肩をすくめる。


「源蔵の命令だ。」


ソウを見る。


「しばらく付き合ってやる。」


風が吹いた。

堺の空が、血のよう赤く染まっていた。

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