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角を狩るモノ  作者: Samail
一章 角狩りの始まり

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五話 斬るもの、斬らないもの

昼下がり。


宿の前で、ソウは腰を下ろしていた。

陽は高く、風は穏やかだ。

なんとなく、いいことがありそうな日。


「にいちゃん!」


駆けてくる足音。

新吉だった。


「どうしたの。」


「いるんだよ! 変なやつ!」


「変なやつ?」


「幽霊見たんだ!さっき!」


息を切らしながら言う。


「だから斬ってくれよ!」


ソウは少しだけ目を細めた。


「……とりあえず、見てみるか。」


連れてこられたのは、村外れの古い家だった。

壁は色褪せ、戸も少し歪んでいる。

人が住んでいる気配はない。


「ここ。」


新吉が指を差す。


「さっきまで、そこにいたんだよ。」


「……。」


ソウは静かに目を向けた。


――いる。

柱の影。

人の形。

ぼんやりと、そこに立っている。

ソウを一瞥して言う。


「……俺を斬りに来たのか。」


ソウは答える。


「お前次第、かな。」


「……そうか。」


それだけ言って、少しだけ視線を落とす。

新吉が袖を引く。


「な、なんかいるの?」


「ああ。」


「じゃあ斬ってよ!」


「……どうして?」


「ど、どうしてって。」


ソウは幽霊から目を離さないまま答える。


「なにか悪さした?そこにいるだけだよ?」


新吉は顔をしかめた。


「でも、気味悪いよ!」


少しだけ、間が落ちる。


幽霊が、ゆっくりと辺りを見回した。

壊れた壁。

傾いた戸。

風に揺れる草。


「……少しだけ、見ていたいんだ。ここが、どうなったのか。」


その声は、どこか遠かった。


ソウは短く言う。


「……そうか。」


幽霊は、何も求めていなかった。

ただ、見ているだけだった。


「……。」


新吉は少しだけ眉を寄せた。


「やっぱり気味悪いよ。」


ソウは小さく息を吐いた。


「気味悪いって理由で斬ってたら、俺は自害しなきゃいけないな。」


「にいちゃんは気味悪くないよ!」


即答だった。


ソウは、少しだけ口元を緩める。


「……そうか。ありがとう。」


しばらく、三人でその場にいた。


風が吹く。

音は、それだけだ。


やがて。


「……変わったな。」


幽霊が、ぽつりと呟いた。


それが、最後だった。

輪郭が、ゆっくりと薄れていく。

崩れるように。

消える。


「……え?」


新吉が声を漏らす。


「いなくなった?」


「ああ。」


ソウは頷く。


「どっか行ったの?」


「さあね。」


それ以上は言わない。

帰り道。

新吉は少し黙って歩いていた。


「……にいちゃん。」


「なに?」


「ああいうの、斬らなくていいの?」


「うーん。人に迷惑かけてないからね。」


新吉はしばらく考えてから、小さく頷いた。


「……そっか。」


風が吹く。

飛ばされた綿毛が舞い上がり、何処かへ消えていった。

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