四話 村の救済
夜は、すぐに訪れる。
村に灯りはあるが、どれも弱い。
戸は閉ざされ、人の気配は外に出てこない。
「……来るぞ。」
酒蔵の前で、ムジナが低く言う。
「ああ。」
ソウは短く答えた。
軋む音。
戸が、わずかに開く。
闇の中から、影が滲み出る。
一角。
ゆっくりと、外へ出てくる。
一体ではない。
二体、三体。
さらに、その奥。
「……多いな。」
「さっきより増えてる。」
ムジナの声が強張る。
一体が、地面を蹴った。
速い。
ソウは動かない。
間合いに入った瞬間、刀が閃く。
首が落ちる。
もう一体。
斬る。
「……キリがないな。」
「おい、なんだこれ。」
さらに来る。
囲まれる。
数が、増える。
「おい、まだ出てくるぞ!」
ムジナが叫ぶ。
ソウは息を吐いた。
刀を、静かに下ろし鞘にしまう。
「……手が足りないな。」
一歩、踏み込む。
手を、払う。
一瞬の静寂。
囲んでいた一角の首が、同時にズレる。
遅れて、落ちる。
崩れる。
音が、まとめて響いた。
一角の体から淡い黄色の光が漏れ出て集まり、
ふよふよとソウの体、腹の辺りへ吸い込まれていった。
「……。」
「……またか?」
「ああ。」
酒蔵の方を見る。
まだ恐らく残っているはずだ。
「行くぞ。」
「分かってる。」
酒蔵の中へ入る。
暗い。
樽が並んでいる。
奥。
動く影。
二体の一角が、飛びかかる。
ソウは一歩で間合いを詰める。
手を伸ばす。
触れる。
そのまま――
崩れた。
音もなく。
静寂。
動くものは、もうない。
「……全部、いったか。」
「ああ。」
ソウは息を整え、周囲を見回す。
樽。
壁。
床。
荒らされた形跡はあるが、特別なものは見当たらない。
一つ、樽を開ける。
舐めてみる。
「……うまい酒だな。」
「あいつらはここから出てた。」
「そうだな。」
それ以上は、言わない。
外へ出る。
気付けば朝になっていた。
広場に村人たちが集まっている。
不安と、期待が混ざった顔。
ソウはその前に立つ。
「とりあえず、酒蔵にいた一角は全部斬りました。」
ざわめき。
「……本当か。」
「もう、出ないのか……?」
「今のところ、気配はありません。」
静かに答える。
一人が、へたり込む。
「助かった……。」
別の者が、涙を拭う。
「これで……眠れる……。」
安堵が、広がる。
その中で、一人の男が呟いた。
「……だが、どうして急に……。」
ソウは少しだけ目を細める。
「分かりません。」
それだけ言った。
嘘ではない。
空を見上げた。
村は、静かだった。
だが。
昨日までとは、どこか違う静けさだった。




