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角を狩るモノ  作者: Samail
一章 角狩りの始まり

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三話 酒蔵の鬼たち

村に入った時、最初に感じたのは静けさだった。


人はいる。

畑もある。

煙も上がっている。


だが、どこか足りない。

生活の音が、薄い。


「……静かだな。」


「だね。」


肩の上でムジナが小さく言う。


「こういうの、あんまり良くない静けさだ。」


ソウは答えず、村の奥へと歩いた。


すれ違う人間は、皆どこか落ち着かない様子だった。


視線を合わせようとしない。

やがて、一人の男が声をかけてきた。


「あんたが……依頼の?」


「はい。話は聞いています。」


「助かる……正直、もう限界だ。」


男は周囲を気にしながら、声を落とした。


「鬼が出る。夜になると、村の中を歩き回るんだ。」


「見た者は?」


「いる。何人もな……だが、近づいたやつは帰ってこない。」


ソウは黙って聞く。


「場所は分かりますか?」


「……酒蔵だ。少し離れたところにある。」


酒蔵の方を指差す。


「あそこに近づくなって、皆に言ってある。」


男は唾を飲み込んだ。


「だが、夜になると……そこから出てくる。」


「なるほど。」


ソウは軽く頷いた。

その時、別の女が口を挟んだ。


「ここの酒はね……ほとんど堺に出してるんだ。」


震えながら続ける。


「このままだと、この村の収入がなくなっちまうよ!」


すぐに口をつぐむ。

言うべきことではなかった、という顔だった。


「案内は必要かい?」


男が言う。


「いえ。場所さえ分かれば。」


それだけ言って、歩き出す。


村を外れ、道は細くなる。

人の気配が消えた。

風の音だけが、耳に残る。


「……なあ。」


ムジナが、低く言う。


「さっきから、変な臭いがする。」


「……そうか。」


「血じゃない。もっと、こう……濁ってる。」


ソウは足を止めなかった。


やがて、建物が見えてくる。

酒蔵だ。

大きくはないが、しっかりとした造り。

扉は閉ざされ、周囲には誰もいない。


静かすぎた。


「……ここか。」


「やめとけって言われた場所、だな。」


ムジナが小さく言う。


その時。


背後で、何かが動いた。

土を踏む音。

一つではない。


「来るぞ。」


ムジナが声を荒げる。

振り向く。

そこにいた。


一角。


だが――一体ではない。

二体。三体。

さらに、奥にも影が動く。


「……多いね。」


「だから言っただろ!」


「分かってる。」


ソウは刀に手をかける。

一体が、飛びかかる。


遅い。


踏み込み、斬る。


首が落ちる。


間を置かず、次が来る。

腕を振るう。

逸らす。


斬る。


二体目が崩れる。

その時。


「おい、まだ来るぞ!」


耳元で怒鳴る声。


「うるさいよ、ムジナ。」


三体目が迫る。

踏み込む。


斬る。


だが――

止まらない。


さらに奥から、影が現れる。


四。五。


「……おい。」


ムジナの声が低くなる。


「これ、いつまで続くんだ!」


ソウは一歩下がる。


数が、おかしい。

一角が、群れている。


「……一度引く。」


「なら急がないと!」


間合いを切り、距離を取る。


一角たちは、追ってこない。


ただ、酒蔵の方へと戻っていく。

まるで、そこが巣であるかのように。


静けさが戻る。


「……なんだ、今の。」


「分からないな。」


ソウは息を整える。

そして、酒蔵を見る。

扉は閉ざされたままだ。


「中だな。」


「絶対そうだな。」


ゆっくりと、歩み寄る。

手をかける。

軋む音を立てて、扉がわずかに開いた。


中は暗い。

だが、目が慣れる。

並んだ樽。

その一つに、目が止まった。


焼印。


――仙花。


「……。」


ソウは何も言わず、扉を閉めた。


「今晩、だね。」


「夜は徘徊するんだろ?」


酒蔵の前に、再び静けさが落ちる。


今は夕刻。

夜の帳はそこまで迫っている。

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