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角を狩るモノ  作者: Samail
一章 角狩りの始まり

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二話 始まりの依頼

宿の軒先で、ソウは腰を下ろしていた。


兵庫の町は朝から騒がしい。

荷を運ぶ声、船の軋む音、人の足音が絶えず行き交っている。


その中で一人、静かに湯気の立つ茶碗を傾けた。

肩では、小さなネズミが丸くなっている。


「……人、多すぎだろ。」


小さく呟く。


「そうだね。」


ソウはそれだけ答える。

外から駆けてくる足音がした。


「おにいちゃん!」


振り向くと、あの子供が立っていた。

息を弾ませ、まっすぐにこちらを見ている。


「新吉。」


「ここにいるって聞いたから!」


そのまま、ソウの前に座り込む。

そして、肩のネズミに目を向けた。


「そのネズミ、まだいるんだな!」


手を伸ばす。

ネズミはぴくりと反応して、ひょいとソウの背に回った。


「逃げられたね。」


「嫌われてるのかな。」


「さあね。」


特に気にした様子もなく、茶碗を置く。

子供は少しむくれた顔をしていたが、すぐに気を取り直した。


「なんか父ちゃんが話したいって!」


「へえ、なんだろう。」


「なんか頼みたいことがあるとか!」


「……。」


軽く頷く。


その様子を、少し離れたところから見ている男がいた。

新吉の父親だ。

ゆっくりと歩み寄る。


「調子はどうだ。」


「悪くないです。」


ソウは短く答える。

商人は一度、新吉の頭に手を置いた。


「先日は、助かった。」


「お気になさらず。」


「そういうわけにもいかん。」


言葉は淡々としているが、視線は真っ直ぐだった。


「礼もあるが……一つ、頼みがある。」


ソウは黙って続きを待つ。


「近くの村の話だ。酒を出していてな。評判もいい。」


声を落として、商人は話す。


「だが、最近妙なことが続いている。」


ソウは目を細める。


「村人が失踪する。鬼を見たという者も多い。」


「……格は分かりますか?」


「一角らしい。だが……」


少しだけ、言葉を切る。


「一体じゃない。複数だ。」


ソウの視線が、わずかに動いた。


「……妙ですね。」


肩の上で、ネズミが小さく言う。


「一角が複数ってのは、変だろ。」


「ああ。」


ソウは静かに答える。

商人はその様子を見ていたが、特に問いはしない。


「村の連中も手を焼いている。討てる者がいないからな。」


真っ直ぐに、ソウを見る。


「引き受けてくれるか。」


しばらく、沈黙があった。


町の喧騒だけが、遠くで続いている。


新吉が、少しだけ不安そうにソウを見る。

ソウはそれに気づき、目を細めた。


「分かりました。」


短く、それだけ言う。

商人は小さく息を吐いた。


「助かる。」


商人が頭を下げる。


「準備するものがあればこちらで用意する。」


「明朝、発ちます。」


「村までは半日ほどだ。」


立ち上がる。


肩のネズミが、また顔を出した。


「面倒ごとだな。」


「そうかもね。」


新吉が見上げていた。


「おにいちゃん、ちゃんと帰ってきてね。」


振り返らずに答える。


「終わったら、また会おうね。」


ソウは笑ってそう告げた。


「群れた一角、ねぇ。」


呟いて、宿の中へと入った。

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