四十七話 襲撃
風が止む。
森が、 息を潜めたみたいに静かだった。
次の瞬間。
木々の奥から影が飛び出した。
速い。
兵介が咄嗟に刀を抜く。
金属音。
火花。
「っ!?」
押される。
重い。
相手は黒装束だった。
顔を隠している。
横。
もう一人。
さらに。
三人。
番頭達が悲鳴を上げる。
「下がって。」
ソウが踏み込む。
天穿。
一閃。
黒装束が後ろへ飛ぶ。
浅い。
避けた。
兵介が息を呑む。
「……人?」
ソウは答えない。
黒装束達も喋らなかった。
ただ。
じっと、ソウを見ている。
値踏みするみたいに。
その中の一人。
袖が揺れる。
一瞬。
ソウの視界に何かが見えた。
紋。
だが。
次の瞬間には消えていた。
風が吹く。
黒装束達が一斉に距離を取る。
そのまま。
森へ消えた。
静寂。
兵介が荒く息を吐く。
「……なんだったんだ?」
ソウは森を見たまま。
「……兵介、見えた?」
「え?」
「袖。」
兵介は眉をひそめる。
「いや、全然。」
ムジナが肩の上で鼻を鳴らした。
「あぁ、例の紋だな。」
兵介が振り向く。
「お前見えてたのかよ。」
「そりゃな。」
ソウは少しだけ目を細めた。
「……やっぱり。」
徳兵衛が恐る恐る近付いてくる。
「だ、大丈夫で……?」
「ええ。」
ソウは天穿を納める。
だが。
空気は変わっていた。
あれは野盗じゃない。
様子を見に来た。
そんな感じだった。
その後は、何事もなく岸和田へ着いた。
町は堺より小さい。
だが、 潮の匂いと人の熱気は似ていた。
徳兵衛は商人達と話し込んでいた。
ミコトは薬草を見に行き、兵介は飯を食い過ぎていた。
夜。
宿。
兵介が魚を頬張りながら言う。
「結局なんだったんだ、あいつら。」
ソウは湯飲みを見ていた。
「……。」
ただ、 胸騒ぎだけが残っていた。
翌日。
帰り道。
空は曇っていた。
風が冷たい。
山道へ入る。
その時だった。
「止まれ。」
声。
囲まれている。
十。
いや。
もっといる。
兵介が舌打ちする。
「囲まれてんじゃねぇか。」
荷運び達が怯える。
徳兵衛が静かに息を吐いた。
前へ、一人出てくる。
痩せた男だった。
頬がこけている。
目だけが妙に濁っていた。
「……何者だ、お前ら。」
低い声。
ソウは肩をすくめる。
「さあね。」
次の瞬間。
地面を蹴る。
速い。
兵介も続く。
「おおおっ!!」
刀。
槍。
悲鳴。
一人。
二人。
三人。
一瞬で崩れる。
兵介が男の腹を蹴り飛ばす。
ソウの天穿が首を裂く。
血。
混乱。
残りは半分。
頭の男が歯噛みする。
「くっ……!」
周囲を見る。
死体。
血。
そして。
ソウ。
男の顔が歪んだ。
「……使うぞ。」
空気が止まる。
手下の一人が怯えた。
「ま、待っーー」
首が飛ぶ。
頭の男が刀を払った。
「死にたいのか。」
静かだった。
残った四人。
そして頭。
全員、懐から小瓶を取り出す。
兵介が顔をしかめた。
「……なんだそれ。」
ミコトの顔色が変わる。
「駄目。」
小さな声。
「それはーー」
飲む。
一気に。
次の瞬間。
二人が崩れ落ちた。
泡を吹く。
痙攣。
そのまま動かない。
残る三人。
喉を掻きむしる。
骨が鳴る。
肉が膨れる。
皮膚が裂ける。
「が、ぁぁぁぁぁぁッ!!」
角。
腕。
牙。
鬼の、臭い。
兵介が息を呑む。
「……は?」
最後。
頭の男。
ーーーーぱきん。
ゆっくりと顔を上げる。
額。
黒い角。
だが。
一角より大きい。
空気が変わる。
ミコトが小さく呟く。
「……双角、未満。」
男が笑う。
口が裂けていた。
「これで……殺せる。」




