四十五話 磨斧作針
夜。
山道。
風が木々を揺らしていた。
一角が吠える。
兵介が踏み込む。
「おおおっ!!」
石の形代が淡く光る。
刀が走る。
斬る。
浅い。
だが止まる。
もう一歩。
踏み込む。
振り抜く。
首が落ちた。
血が噴き出す。
兵介はその場で肩を上下させた。
「……はぁ、はぁ。」
息が熱い。
手の中。
石の形代を見る。
黒ずんでいた。
少しだけ。
「……よし。」
拳を握る。
「俺もついに鬼を斬ったぞ……。」
嬉しそうだった。
その時。
後ろ。
「いや、お前、普通にすげぇぞ。」
声。
振り向く。
長槍を担いだ男が立っていた。
大柄。
坊主頭。
傷だらけ。
「初陣なんだろ?」
「まあな。」
兵介が鼻を擦る。
「ちゃんと仕留めたのは初めてだ。」
男が笑う。
「十分だろ。」
槍を肩へ乗せ直す。
「一角なんざ、普通は十人掛かりだ。」
兵介が少しだけ照れる。
「……そういうもんか。」
「そういうもんだ。」
男は胸を叩いた。
男の足元にも、鬼の死体が一つ。
「豪槍の忠たぁ俺のことよ。」
「豪槍?」
「言うほど豪でもねぇけどな!」
豪快に笑う。
その時だった。
奥。
風が吹く。
臭い。
忠の顔が変わる。
「……まだいるぞ。」
木々が揺れた。
一角。
一体。
二体。
三体。
さらに。
四。
五。
鬼の影。
兵介が顔を引きつらせる。
「はぁ!?」
忠も槍を構えた。
「これは、死んだ……か?」
空気が張る。
その時。
奥から、静かな足音。
ソウだった。
血が付いている。
だが。
息一つ乱れていない。
忠が目を瞬かせる。
ソウは首を傾げた。
「終わったよ。」
静かだった。
兵介が周囲を見る。
地面。
転がっている。
一角。
一。
二。
三。
四。
五。
全部、首が落ちていた。
沈黙。
忠の槍が少し下がる。
「「……え?」」
兵介も止まる。
ソウは天穿を払った。
血が地面へ散る。
「そっちは?」
兵介がゆっくり、自分の一体を見る。
豪槍も。
次に。
五体を見る。
沈黙。
やがて。
「……いや待て。」
引きつった声。
「俺、一体で死ぬほど頑張ったんだけど?」
ソウは少しだけ考える。
「ちゃんと斬れたじゃん。」
優しい声だった。
兵介は微妙な顔をした。
忠が乾いた笑いを漏らす。
「……バケモンだな、こりゃ。」




