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角を狩るモノ  作者: Samail
五章 境界

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四十三話 形代

「双影の瀬良だ。」


夜。


森。


宵屋の依頼を受けたソウと兵介。

今回は初依頼ということもあり、もう一人付いた。


細い男だった。

長い前髪。

軽い着物。

腰には小太刀が二本。

わざとらしい笑み。


「ま、よろしく。」


兵介が眉をひそめる。


「胡散臭くねぇ?」


「おい、聞こえてるぞ、デカイの。」


瀬良は肩をすくめた。

その横で、ソウは山の奥を見ていた。


風。

臭い。

いる。

しかも。


「……一角が群れてる?」


ぽつり。

瀬良が笑った。


「……なんでわかる?」


「気配?」


「まあ、ソウだからな。」


「理由になってないんだが?まあいい。」


指に挟んだ紙を揺らす。


白い紙。


兵介が紙を見る。


「それ、なんだ?」


「え?知らねぇの?何しに来たの?お前ら。」


逆に驚いた顔。

瀬良は紙をひらひらさせる。


「これは形代、だ。」


ソウが視線を向ける。


「カタシロ?」


「鬼を斬るなら必需品。」


瀬良は当然みたいに言った。


「鬼は斬るだけじゃ駄目なんだよ。」


風が吹く。


「喰われる。」


兵介が顔をしかめる。


「喰われるって。」


「鬼に近付く。」


瀬良が自分の胸を指差した。


「だから皆これを使う。」


紙を刀へ貼る。

空気が少し変わる。


兵介が息を呑む。

ソウは黙っていた。


「……知らなかった。」


瀬良が目を瞬かせる。


「は?」


細い目が、天穿を見る。


「お前、その刀だけでやってんの?」


静かだった。


「……まあ。」


瀬良が少し引いた。


「ええ、怖。」


その時。

奥。

木々が揺れた。

低い唸り声。


一角。

三体。


兵介が息を飲む。


「三っ!?」


瀬良は小太刀を抜いた。

軽い音。


「一体ずつだ。」


笑う。


踏み込む。

速い。

地面を滑るように動く


一角が振り向く。

その瞬間。

瀬良が消えた。

残像。

いや。

違う。


二人いるように見えた。


「双影。」


小太刀が走る。

一角の首へ浅く入る。

さらにもう一閃。

首が落ちた。


兵介が目を見開く。


「うおっ!?」


その頃には。

ソウは既に二体目を斬っていた。


深い。

速い。

天穿が唸る。

血。

崩れる。


さらに。

もう一歩。

二体目。

踏み込み。

一閃。

首が飛ぶ。


静かになる。

風だけが残った。


瀬良が固まっていた。


「……は?」


ソウは天穿を払う。


「終わったね。」


瀬良が一角を見る。

次に。

ソウを見る。


沈黙。

やがて。


「……いや待て。」


引きつった声。


「なんでお前一瞬で二体倒してんの?」


肩のムジナが笑いを堪えていた。


瀬良はゆっくり、自分の形代を見る。


白かった紙は、黒く染まっていた。


「……普通はこうなる。」


低い声。


「鬼を斬れば、形代が穢れる。」


指先で黒ずみをなぞる。


「だから使い捨てだ。」


兵介が顔をしかめる。


「じゃあ使い続けたら?」


「壊れる前に捨てる。」


瀬良は当然みたいに言った。


「じゃねぇと、人が先に壊れる。」


静かだった。

瀬良が天穿を見る。


「……で。」


細い目。


「あんたはなんで何も起きねぇ。」


ソウは少しだけ考え。

天穿を見る。


「鬼を喰らうから。」


風が吹いた。


瀬良が止まる。


「……あー。」


引いた顔。


「なるほど。」


小太刀を納める。


「法具の類い、か。」


兵介が首を傾げる。


「ホウグ?」


「特別な道具ってこと。」


瀬良は肩をすくめた。


「まあ、“喰らう”って言い方が穏やかじゃねぇが。」


兵介はソウを見る。


「何言ってんのかわかんねぇ。」


ソウが普通に返した。


瀬良は頭を抱えた。


「お前らよくそれで鬼狩りやってんな……。」


深くため息を吐く。


やがて。

兵介を見る。


「デカブツ。」


「なんだよ。」


「角狩りの役に立ちてぇなら、形代の一つでも持っとけ。」


兵介が眉をひそめる。


「どこ行きゃ手に入る?」


瀬良は少しだけ考え。


「あー。」


空を見る。


「最近、形代売りの女がいる。」


「女?」


「妙なのだよ。」


肩をすくめる。


「でも腕は確かだ。」


風が吹く。


「そこ行けば、なんとかなるんじゃねぇか。」


兵介が頷く。


「へぇ。」


ソウは静かに言った。


「……ありがとう。」


瀬良は少しだけ黙る。


細い目がソウを見る。

その視線は、 最初より少しだけ真面目だった。


やがて。


「……こんな時勢だ。」


低い声。


「お前らが敵にならねぇことを祈ってるよ。」


そう言って、穢れた形代を風に流した。

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