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角を狩るモノ  作者: Samail
五章 境界

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四十二話 堺の人々

「左頬に傷のある男を探している。」


宵屋の空気が、少しだけ止まった。

源蔵は黙って煙を吐く。


「千鬼衆の用心棒をやってるらしい。」


静かだった。

兵介も黙る。

細い目が、ソウを見る。

やがて。


「……五貫だな。」


兵介が固まった。


「ご、五貫!?」


「千鬼衆絡みだぞ。」


源蔵は鼻を鳴らす。


「命張る情報が安いわけねぇだろ。」


兵介が顔をしかめる。


「高ぇ……。」


「嫌なら諦めな。」


源蔵は淡々としていた。

ソウは少しだけ考え。


「……払えないね。」


「だろうな。」


源蔵は笑う。


「まあ、いきなり払えとは言わねぇ。」


帳簿を指で叩く。


「とりあえず金稼げ。」


細い目がソウを見る。


「鬼絡みなら、それなりに払ってやる。」


風が吹く。


「話はそれからだ、角狩り。」


静かだった。


やがて。

ソウは頷く。


「……わかった。」


その日は、それで終わった。


翌日。


朝。


朝から騒がしい。


荷車。

怒鳴り声。

潮の臭い。


ソウ達は表通りを歩いていた。

兵介が辺りを見回す。


「……臭かった。」


「安宿だからね。」


「野宿の方がマシかもしれねぇ。」


兵介はぐぐっと体を伸ばす。


「無駄に図体ばかりでけぇからだろ。」


「無駄じゃねぇだろ!?」


ムジナと兵介のいつものやり取り。

ソウも少し笑う。


やがて。

大きな店が見えてくる。


『鳴海屋』


立派な看板。

出入りする番頭達。


兵介が目を丸くした。


「……でかくねぇか。」


「伊兵衛さんの紹介状、ここ宛だったからね。」


戸をくぐる。


店員がこちらを見る。

最初は怪訝そうだった。


だが。

紹介状を見た瞬間。

空気が変わる。


「少々お待ちを!!」


奥へ走っていく。

兵介が少し引いた。


「なんだ、あれ……。」


しばらくして。

奥から、 大柄な男が飛び出してきた。


「伊兵衛様のぉぉぉ!!?」


声がでかい。

丸い。

汗だく。

だが目だけ異様に鋭い。


「いやぁぁぁ!!」

勢いのままソウの手を掴む。


「よくぞ!!よくぞお越しくださいました!!」


兵介が押されている。


「ち、近ぇ!!」


男は気にしない。


「伊兵衛様の恩人なら!!」


ばん、と胸を叩く。


「実質わたくしの恩人ですとも!!」


「いや別に恩人ってほどでは。」


「またまたぁ!!」


豪快に笑う。


店員達が慣れた顔をしていた。

ソウは少し困った顔をする。

男はようやく息を整えた。


「失礼!!」


胸へ手を当てる。


「鳴海屋主人、徳兵衛と申します!!」


深々と頭を下げる。

その動きだけ妙に綺麗だった。

商人の礼。


「して!!」


顔を上げる。


「宿は!?」


「木賃宿だけど。」


「駄目です!!」


即答。

兵介がびくっとした。


「せめてうちの宿を使ってください!!」


「いや、節約しないと。」


「……。何かお入り用で?」


「そうですね。」


「ちなみに、おいくらほどでございましょうか?」


「五貫くらいかな。」


徳兵衛は笑顔だった。


「五貫くらいならすぐお貸しいたしますよ!!」


兵介の顔が輝く。


「おおっ!!」


だが。

ソウは首を振った。


「……いや。」


静かな声。


「返すあてないからね。」


徳兵衛が止まる。

兵介が顔をしかめた。


「借りりゃいいじゃねぇか。」


「返せない借りは作らない方がいい。」


短い返事。

静かだった。

やがて。

徳兵衛が、 ふっと笑った。


「……なるほど。」


目が細くなる。

商人の目だった。


「伊兵衛様が気に入る訳ですな。」


……宿は押し付けられた。


兵介は泣いて喜んでいた。

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