四十一話 宵屋
堺は、夜でも騒がしかった。
提灯の灯り。
酒の臭い。
怒鳴り声。
笑い声。
人が多い。
多すぎる。
「疲れるな、この町……。」
兵介がうんざりした顔をする。
「まだ入ったばっかだろ。」
「何だって人がこんないるんだ。」
「さあな、俺に言われてもしらねぇ。」
「ああ、そうだろうよ。」
ムジナが肩の上で笑った。
宿はすぐ決まった。
港近くの安い木賃宿。
狭い。
臭い。
飯も微妙。
だが、寝るだけなら十分だった。
「で。」
兵介が魚の骨を弄る。
「明日は?」
ソウは懐から木札を取り出した。
弥助坊の木札。
黒ずんだ古い札。
「口入れ屋、かな。」
ムジナが尻尾を揺らす。
「仕事探しか。」
「金は必要だからね。」
兵介が顔をしかめた。
「世知辛ぇ……。」
翌日。
堺。
朝から人で溢れていた。
商人。
荷運び。
浪人。
坊主。
その中を抜ける。
やがて。
細い路地へ入った。
表通りより静かだった。
古びた店。
暖簾。
『宵屋』
墨で書かれている。
「ここか?」
兵介が覗き込む。
ソウは木札を見る。
同じ印。
「たぶん。」
戸を開ける。
薄暗い。
煙草の臭い。
帳簿。
酒瓶。
そして。
奥。
男が座っていた。
初老。
細い目。
片目に傷。
胡散臭い。
「……。」
男はソウ達を見る。
次に。
木札を見る。
空気が少し変わった。
「おや。」
男が笑う。
「弥助坊の。」
ソウは木札を置いた。
男はそれを手に取る。
しばらく眺め。
鼻で笑った。
「まだ死んでなかったか、あのクソ坊主。」
兵介が眉をひそめる。
「知り合いか?」
「腐れ縁だ。」
男は立ち上がった。
「で。」
細い目がソウを見る。
次に兵介。
最後に。
ムジナ。
「……鼠まで連れてるたぁ、面白ぇ組み合わせだ。」
ムジナが尻尾を揺らす。
「連れだからね。」
ソウの言葉に男が吹き出した。
「はは。」
酒臭い息。
「気に入った。」
そのまま座り直す。
「俺ァ宵屋の源蔵だ。」
机を軽く叩く。
「さて。」
笑う。
「何を探してる、角狩り。」




