三十七話 追放
夜。
風が鳴っていた。
家の外。
誰かが立っている気配がする。
「……入れ。」
声を掛ける。
戸が開いた。
九条だった。
昼間の傷が残っている。
包帯。
血の臭い。
だが、立っていた。
「……。」
しばらく、何も言わない。
やがて。
「お前は追放だ。」
低い声。
「村の寄合でそう決まった。」
静かだった。
囲炉裏の火が揺れる。
「……そうですか。」
短く返す。
九条が眉をひそめた。
「……理由が聞きたくはないのか。」
「見当はついています。」
風が吹く。
九条は深く息を吐いた。
「……はぁ。」
頭を掻く。
「俺は、お前に嫉妬してた。」
「何を急に。」
「いいから聞け。」
低い声。
「今から話すことは、全部お前への罵倒でしかない。」
囲炉裏が鳴る。
「今日の出来事。」
九条が言う。
「あれで皆確信した。」
静かだった。
「やっぱりお前は、鬼の血筋だってな。」
俺は黙って聞いていた。
九条が続ける。
「お前の祖父は、とんでもなく強かった。」
風が鳴る。
「今日のお前が霞むほどにな。」
九条は笑わなかった。
「だが、強すぎた。」
静かな声。
「そして、鬼になった。」
囲炉裏の火が揺れる。
「……。」
「それを殺したのが、お前の親父だ。」
言葉が落ちる。
重い。
「お前らの家系は狂ってる。」
九条がこちらを見る。
「鬼の血が混ざってるんだ。」
静かだった。
俺は何も言わない。
九条が舌打ちする。
「……二日やる。」
低い声。
「二日で出ていけ。この村から。」
囲炉裏が小さく鳴る。
「……わかりました。」
九条の顔が歪む。
「……何かあるだろう!?」
思わず声を荒げる。
「これだけお前の家を馬鹿にした俺に!!」
俺は少しだけ考えた。
そして。
「……薄々気付いていました。」
静かに言う。
「それに。」
九条が睨む。
「それに?」
囲炉裏の火を見る。
「これで、晴れて仇を追えます。」
静かだった。
九条はしばらく何も言わなかった。
やがて。
「……やっぱり狂ってるよ、お前ら。」
掠れた声。
踵を返す。
戸へ向かう。
その手前で。
止まった。
「……ただ。」
振り返らないまま言う。
「今日、お前がいなければ。」
風が吹く。
「この村はなくなっていた。」
静かな声だった。
「それだけは忘れるな。」
戸が開く。
夜風が入る。
九条はそのまま、闇の中へ消えていった。
一人になる。
囲炉裏の火を見る。
静かだった。
少しだけ。
九条を見直していた。




