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角を狩るモノ  作者: Samail
四章 名前

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三十四話 蒼司

刀を振る。


風を裂く音。

踏み込み。

呼吸。

斬る。

もう一度。

振る。


汗が地面へ落ちる。

止まらない。


「……またやってんのか。」


声。


振り向く。

良太が立っていた。

呆れた顔。


「いつからやってんだよ、いい加減休めよ。」


「まだ足りないから。」


短く返す。

良太はため息を吐いた。


「最近そればっかだな。」


俺は答えない。

天穿を構える。

振る。


良太が少しだけ黙る。


「……蒼司。」


その呼び方にも、もう慣れていた。


蒼司殿。

蒼司様。

守り人。

みんなそう呼ぶ。


子供達も、前みたいに気軽には近寄ってこなくなった。


悪い気はしない。


だが。

少しだけ、遠くなった気もしていた。


「なあ。」


良太が木へ寄りかかる。


「そんな強くなってどうすんだ。」


「どうって。」


「もう十分強ぇだろ。」


振る。

風が鳴る。


「足りない。」


また言う。

良太が顔をしかめた。


「何にだよ。」


答えなかった。


守り人となって一度だけ力を使った。

衝動的なものだった。

ただ、なぜか父上はわかっていた。


『使ったな。』


その時の父上の顔が、祖父の墓の前で見せたものと同じだった。


あんな顔をして欲しくはない。


以来、俺は力を使っていない。


力を使わずに刀で斬る。

そのために強くなる。




別の日。


山。


風が低く流れる。

一角がいた。


踏み込む。

天穿を抜く。

斬る。

深い。


だが倒れない。


一角が吠える。

もう一歩。

首を落とす。


遅れて、 血が噴き出した。


静かになる。

後ろで、 村人達が息を吐いた。


「……さすが蒼司様だ。」


「助かりました。」


頭を下げられる。

刀を払う。

その時だった。


「随分いい気なもんだな。」


声。

振り向く。

男が立っていた。

歳は俺と同じ。


腰に刀。

九条家の男だった。


もう一つの守り人の家系。

正統な、守り人だ。


「九条様。」


俺が言う。

男は鼻で笑った。


「村の連中も馬鹿だよな。」


死んだ一角を見る。


「鬼を斬れるからって、簡単に持ち上げやがる。」


空気が少し張る。

村人達が顔を見合わせた。


「何が言いたいのですか。」


俺が低く言う。

九条は肩をすくめた。


「別に。」


笑う。


「ただ、お前んとこは昔から力任せだと思ってな。」


俺の手が、 僅かに動く。


九条はそれを見て、少しだけ口元を歪めた。


「怖ぇ怖ぇ。」


「お戯れが過ぎますぞ。」


低い声。

父上だった。


いつの間にか、 後ろに立っている。


九条は舌打ちした。


「……失礼しましたよ、前任様。」


わざとらしく頭を下げる。


そのまま、 山を下っていった。


風だけが残る。

父上は何も言わなかった。


ただ。

俺の手元を見ていた。

俺はゆっくり、 拳を開く。


知らないうちに、 強く握り締めていた。

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