三十一話 焚き火の向こう
昼。
西宮手前の関。
木柵。
槍を持った番兵。
荷を運ぶ商人達。
「次。」
気だるそうな声。
兵介が銭を放る。
「二人分。」
番兵が兵介を見る。
「外で寝るなら気を付けろ。最近あやかしがやたらと出る。」
「わかった。」
通り過ぎる。
ひょこっとムジナが顔を出した。
「あやかし増えてるのか。」
「お前さんも変わらないけどな。」
「違いないや。」
軽いやり取り。
「人目が減ってきたから変化やめるわ。」
ムジナがソウの肩から飛び降りる。
ぼふん、とネズミからタヌキへ。
「相変わらず見事なもんだな。」
「へへ、だろ?」
夕方。
街道を外れた林。
焚火が小さく鳴っている。
兵介が魚を焼いていた。
「……焦げた。」
「下手だね。」
ソウが笑う。
「うるせぇ。」
焚き火が燃えている。
赤い。
静かだった。
遠くで虫が鳴いている。
「……なあ。」
兵介がぽつりと言う。
「ん?」
「仇討ったらどうするんだ。」
火が揺れる。
「どうするって?」
短い返事。
兵介が顔をしかめる。
「故郷帰るとかあるだろ。」
少しだけ、間。
「あぁ。帰るところはないよ。」
静かだった。
「……は?」
兵介が顔を上げる。
ソウは火を見たままだった。
「追い出されたからね。」
風が吹く。
焚火が揺れる。
兵介はしばらく黙っていた。
「……お前、どこの出だっけ。」
「讃岐。」
火が鳴る。
「山の方。」
ムジナが尻尾を揺らした。
「ド田舎。」
「お前も同じでしょ?」
兵介がソウを見る。
「……何やったんだ。」
少しだけ、間。
ソウは焚火へ枝を放った。
火の粉が舞う。
「鬼を殺した。」
兵介が眉をひそめる。
「今も殺してるだろ。」
「素手で。」
静かになる。
風が吹いた。
虫の声だけが残る。
兵介は初めてソウと会った時を思い出した。
変異した双角相手に、無謀にも刀を鞘に納めたソウ。
そして。
圧倒した。
「あの時のあれはやっぱり異常だったんだな。」
「強かったからね。あの双角。刀だと対抗しきれなかった。」
パチパチと焚き火が燃える。
「聞いていいか。」
「何を?」
「故郷を追い出された、深い理由。」
「……聞いても楽しくないよ?」
ソウはぽつりぽつりと話し出した。




